WS(4) 旅するお料理図鑑


2016年7月2日(土)第四回ワークショップ

対象:小学生以上(未就学児は保護者同伴)

持ち物:図鑑を作るのに必要なもの

会場:南橘町第2集会室

時間:13:00~15:00

企画:星野怜菜(群馬大学学生)

スタッフ:中島佑太、星野怜菜+高木蕗子+狩野未来(群馬大学学生)、今井朋+小田久美子(アーツ前橋学芸員)

参加者:合計20名(大人3名、子ども17名)

ワークショップの流れ

12:30 受付開始

13:00~13:15 あいさつ、イントロダクション

13:15~14:00 団地内で材料を収集

14:00~14:30 料理をモチーフにした作品を、収集したものを素材に制作する

14:30~14:50 レストランのセッティング、料理のレシピを記録

14:50~15:00 レストランの開店

15:00 終了

アーティストの言葉

 4回目のワークショップ《旅するお料理図鑑》は、群馬大学に通う学生メンバーたちが主体的に内容を考えたワークショップとした。旅行に出かけるとしばしば、自分たちの常識がまるで通じない場面に出くわす。まさに、自分たちが当たり前だと思っていることを疑うにはぴったりなのが、旅行だ。

 今回は、そんな旅行先で出会う食べ物をテーマにしたワークショップが考案された。旅行先での食事は、まさに旅行の最大の醍醐味と言っても過言ではない。普段よりも贅沢な食事をするだけでなく、見たこともない食材を、聞いたこともない調理方法で、嗅いだこともないような匂いの調味料で味付けをし、使ったことのないカトラリーで食べる、なんて、まさに自分たちの日常をかけ離れた体験に他ならない。しかし、旅行が長引けば長引くほど、だんだんといつもの我が家で、いつも通りの簡単なご飯が食べたくなるもの。海外で長く滞在制作をする時など、とにかく米が食べたくなる。しかし海外の日本料理屋は高いので、大抵は中華料理屋に行ってチャーハンを食べたりする。和食ではないにせよ、しょうゆ味のご飯を口にすると心底気持ちが落ち着くし、体調も良くなる気がしてくる。旅行をするというのは、自分がいつも住んでいる場所・地域・家がいかに落ち着く場所なのか、ということを確認しに行っているようなものだ。

 今回のワークショップに話を戻すと、モチーフに選ばれたのはお料理図鑑だった。初めて食べる外国の料理のように、お料理図鑑なんて見たことがないが、そんな未知のものに触れた時、我が家でのご飯を思い出す。図鑑とは何か、という話にさえならぬ間に、団地で見つけたものを使ってレストランをつくるという方向に話がまとまったようで、参加者の子どもたちは外へ飛び出していった。前回のワークショップでも、会場を出て外を歩いた。外に出るという理由から、靴をつくる、というアイデアが生まれた。

今、いるその場所ではない場所へと移動をする。それが遠く離れた海外であれ、集会所の外であれ、今自分がいる場所から離れることは、今自分がいる場所や状況を、認識するための方法の一つになる。離れてみなければ気づかないこともあるのだ。

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団地で見つけたものを使ってレストラン、となれば子どもたちは当然のように団地内に生えている草花を使って、お料理をつくる、という発想する。団地がコンクリートの建物が立ち並ぶ、無機質な場所のように感じるかもしれないが、実はとても緑の豊かな場所だ。集会室を一歩外に出れば、すぐに植栽があるし、自治会の活動によって彩られたプランターも多くある。計画的に植えられた街路樹の他にも、団地を歩けば住民のみなさんが育てている様々な植物を目にすることができる。除草や植栽の管理なども、自治会の活動として行われているらしいが、近年では自治会の活動自体に参加する人が高齢化したり、働き方の変化によって減っているため、手付かずの場所も見受けられる。

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子どもたちがレストランづくりに使う植物が、管理の行き届いていない部分の植物ならいいが、そうもいかず、おそらく誰かが育てているだろう植物も、咲いている花も取ってきてしまう。ある男の子が、団地内にあるぶどう棚になっていたぶどうや、小さなりんごの実を取ってきた。女の子たちが花をとり、男の子がより大きな獲物を収穫する、まるで狩猟民族のような光景にも思える。ところが、案じていたように地元の方に「あのおじさんが育てているやつでしょ!」と、怒られてしまうシーンもあった。団地を歩いている時に僕も、そのおじさんがぶどうを育てている姿を見たことがある。子どもたちもおそらく、そのおじさんが育てているぶどうだと知っていたからこそ、誰よりも大きな獲物を取ってくるように、そのご馳走を持ち帰ってきたように思う。

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ひとつ気になるのは、そのぶどうは一体誰のものなのかということだ。
南橘団地は公営の団地で、(県営と市営の団地があり、一部が戸建て住宅として分譲されている)その土地は私有地ではないはずだ。ぶどうのおじさんが、ぶどう棚をどのような許可を得て育てているのかは定かではないが、占有許可を取っていないとすれば、そのぶどうの木はおじさん個人のものではないはずだ。それでも地域の人たちが、おじさんが育てていることを知っているから誰も勝手には取らないということならば、それは長年の居住期間の中で生まれたグレーゾーンということになる。(もしかしたらこの記事がそれに当たるかもしれませんが、)誰かが指摘してしまえば、法律や条例に違反していることでも、そのコミュニティーの中では普通なこととして成立してしまうことは珍しい話ではない。外側からきた我々にとって、普通や当たり前ではないことも疑い、当たり前を更新していく必要があるし、それも可能であるということだ。逆もまた言えることで、地域の人たちにとって、当たり前や普通を揺るがすきっかけにもなるような出来事をつくれたらうれしいと思う。


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(執筆=中島佑太、撮影=スタッフ、編集・投稿=中島佑太)

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