表現の森2020  遅いスタート


表現の森2020  遅いスタート

前回前橋を訪れたのが今年の2月のことだから、再訪するのに随分と時間が経ってしまった。その時はこんなにもコロナウィルスが世界的に影響を及ぼすと予想しなかったから、軽い気持ちで現場を離れ、仲間と次回のスケジュールを確認したのだが、それから世界は大きく変わってしまったように思う。振り返れば、あっという間だった。国の自粛要請に伴い、アリスの広場も開所を一時休止した。アリスの人たちの様子が気になった。佐藤代表とは定期的にオンラインミーティングをしているので、様子を聞いてみると、こんな言葉が返ってきた。「我々も大変ですけど、数週間外出しないでノイローゼになる人がいると聞いて驚きました。僕らは何年もひきこもっていたので、その点は全く平気ですし、普通のことです。」その言葉を聞いて妙に納得してしまった。そして、もしかしたら、ひきこもることに後ろめたさを感じている人たちにとっては、ステイホームという言葉は安心感を生んでいるのかもしれない。

それから5ヶ月、世間の話題が落ちついた頃合いを見計らって前橋に行くことを決めた。次に行けるのもいつになるかわからない。一回一回の訪問がその場限りと感じるようになった。今回どうしても訪れたかったのは、同じ表現の森のアーティストでもある廣瀬智央さんの展覧会があったからだ。僕自身も作品と対面したかったし、アリスの人たちにも見せたかったので、5ヶ月ぶりの「ゆったりアーツ」(休館日の美術鑑賞会)を開催した。しばらく間が空いてしまったためか参加者は少なかったが、それでも久々の再会が嬉しかった。廣瀬さんの展示「地球はレモンのように青い」の空間に入ると、会場いっぱいに柑橘系の爽やかな匂いが充満していた。この状況下でどこか殺伐と感じる街の印象とは空間が反転してしまったように感じる。アリスの人たちに久しぶりに会えたことと、久々の美術館に来られたことが嬉しくて、レモンの空気を肺いっぱいに吸い込んだ。

廣瀬さんと活動を共にするアーティストの後藤朋美さんと学芸員の池上さんにエスコートしていただき、会場を巡った。とはいえ、僕はといえば久しぶりに再会するアリス最年少の少女と一緒にガランとした空間を遊びまわった。赤い海と題された分厚い絨毯の上に寝転ぶと、植物系の油の匂いがどこか懐かしく感じられる。これまでのアリスの広場との活動では、別のひきこもり場所を探して、外へ外へと出向いていたが、このゆったりアーツのように、外界と遮断された心地よいひきこもり場所も作りたいと思うようになった。今、前橋商店街に作っている拠点「まちのほけんしつ」にも、安らげるひきこもりの要素を作りたい。外と内が反転するように。

2020年の活動は前橋への訪問回数を減らす方向だが、1つ大きな変化が加わった。これまで僕一人で行っていた活動に協力者が加わる。2年ほど参加者として自主的に参加してくれていた天羽絵莉子さんをコーディネーターとして迎え、活動を共にすることになった。今年は2つの頭を持って進めていきたい。そしてもちろんアリスの仲間と、ハレルワの仲間と、たくさんの考え方で、多様性が可能であるのかをチャレンジをしていきたい。アーティスト・ひきこもり・LGBT、そこにコロナが加わって、より複雑な今年の活動がスタートします。乞うご期待

(執筆:滝沢達史)

「ゆったりアーツ」7月22日13:00〜16:00

参加者15名(アリスの広場:若者3名、職員・保護者7名、アーツ前橋4名、取材同行1名)

 

今までと違うけど、違わないかもしれない

初めまして。天羽絵莉子と申します。この度、滝沢達史さんとアリスの広場のプロジェクトのコーディネーターをすることになりました。滝沢さんに誘われて、初めてアリスの広場に行ったのは2017年5月。それから何度も遊びにいっては、みなさんとお茶をしながらおしゃべりしたり、一緒に芸術祭に行ったり、赤城山で朝までたき火を囲んだりして楽しい時間を過ごしてきました。通ってきている方たちに負担をかけるのではないかと思って、最初は緊張していましたが、代表の佐藤真人さんが運営するアリスの広場はフリースペースという、いつ来ても良いし何をしていても良い場所として運営されていて、滝沢さんをはじめ、アリスの広場にくるボランティアの方々も「支援する」というより、一緒に過ごすことを楽しんでいる場所だったので、私にとっても、リラックスして皆さんと過ごせる場所になりました。今後も関われることに感謝しつつ、このプロジェクトを通して身の回りのこととどんな方法で関わることができるか、皆さんと一緒に知ったり試したりすることができる場を作っていきたいと思っています。

プロジェクトと拠点づくり

昨年度からアリスの広場は、活動を続けるための新しい拠点を作っています。物件探しから始まり、それをきっかけにプロジェクトを共にすることになった、群馬県のセクシュアルマイノリティ支援団体「ハレルワ」のみなさんと一緒に、改装をはじめ、改修費集めのためのクラウドファンディングも行いました。やらなければいけないことは多岐にわたり、関係者もぐんと増え、調整すべきことは山のように出てきました。そして新型コロナウィルス感染症拡大による影響もあり、改修はゆっくりと進んでいます。それは2団体が居を共にする準備として必要な時間のようにも感じています。

今回の改修ワークショップは、私にとって約5か月ぶりになりました。久しぶりに建物に入ると、以前は改装中というより取り壊し中のイメージだった(床材をはがしたり、天井を落としたりと、実際取り壊し中だった)1階は、床にコンクリートが流され、DIYの機材が棚に並び、これから使用する木材が立てかけられて、すっかり作業場になっていました。また、ペンキを塗る際の養生をアリスの広場のメンバーがてきぱきと準備をしているのを見て、私が来ていない間に多くの時間や作業を共にし、目に見えないけれど消えないものが着実に育っている力強さを感じました。

今回もハレルワの皆さんと一緒に改修を2日間行い、建物前面出入口付近のペンキ塗りや、2階にある事務所機能を持たせた部屋のとなりにある和室の片付け、1階のトイレの床の造作などを行いました。毎回ワークショップの時には全員で休憩をとる時間があり、今回はすっかり片付いた和室に集まって換気をしながら静かに休憩しました。静かなのは感染予防のためだけではなく、アリスの広場では集まってもしゃべらなくてもいいし話してもいい時間を、みんなで集まって過ごします。何かをすることを期待されず、それぞれがそれぞれの時間の流れをもっていることを感じられる時間です。

 

拠点づくりの中で生まれた新しいプロジェクト

先日、岡山にいる滝沢さんと前橋の拠点をオンライン会議システムでつなぎ、クラウドファンディングの協力者に向けて改修の進捗報告とお礼を伝えるための配信を行いました。その時感じた可能性をきっかけに、今年度は拠点づくりに関わる滝沢達史さん、アリスの広場の佐藤真人さん、ハレルワ代表の間々田久渚さんによる配信チャンネルを立ち上げたいと思っています。アートから社会問題まで、プロジェクトを共にする3人の個人的な興味や視点をふんだんに盛り込んで、社会の広がりを感じられるものを作っていきたいと思っていますので、ご期待ください!

 

(執筆:天羽絵莉子)

「まちのほけんしつ拠点改修ワークショップ」

7月23日12:00〜18:00

参加者8名(アリスの広場:若者3名、職員1名、ハレルワ:メンバー2名、アーツ前橋2名)

7月24日12:00〜20:00

参加者10名(アリスの広場:若者3名、職員1名、ハレルワ:メンバー4名、アーツ前橋2名)

 

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