ゆったりアーツ8/闇に刻む光 ー アジアの木版画運動


不登校、引きこもりと呼ばれる若者と休館の美術館で作品を鑑賞する「ゆったりアーツ」は、2017年からアーツ前橋の展示替えに合わせ、これまでに8回開催している。外出が苦手なアリスの広場の若者にとって、閉鎖された展示空間は相性が良いようで「別の落ち着ける(ひきこもれる)場所」として、今では定期的なプログラムとなっている。

今回出かけたのは、昨年に福岡アジア美術館で開催された「アジアの木版画運動」の巡回展。アーツ前橋では福岡よりも作品数が増え、最終展示室で現代の社会運動へと帰結する独自の構成が見られる。木版画はケーテ・コルビッツを入口に、中国・日本と続き、『大衆が扱えるメディア』として、アジアの大衆運動と木版画の関係性に着目している。木版画の持つ簡易性とイメージの拡散はインターネットを介した現代のメディアにも通ずるところがあり、アリスの若者にとっても良い刺激になると考えていた。

2年前からアリス美術部に通っているMさんは、アナログな表現や現代美術に触れたいと、苦手な外に出てきてくれる。彼女はペンタブレットで描いたイラストをpixivなどの交流サイトで発表しており、腕前はかなりのものだが、自分の描いている絵はニーズに合わせているだけで、本当に描きたいものではないかもと感じているらしい。この日も直前まで体調の優れなかった彼女は、木版画の表現にも惹かれたらしく「来れて良かったです」と、控えめな笑顔を見せてくれた。しばらく横で一緒に作品を眺めながら、彼女のイラストを木版画にしたらどうなるか、という話をしていると「やってみたいです」と、笑顔が強くなった。暗闇で展示ケースの照明に照らされる彼女の白い顔を見ていると、「闇に刻む光」というタイトルがそのまま見えるようで、可笑しくなった。アリスの若者と木版画の相性も案外良さそうなので、今度彫ってみようかと思う。

(執筆・投稿/滝沢達史)

アーツ前橋 「闇に刻む光 アジアの木版画運動」 2019年2月2日(土)〜3月24日(日)

http://www.artsmaebashi.jp/?p=12321

 

 

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