音の玉手箱(2018年度) 第1回6月18日


「音の玉手箱」の活動報告です。

日時:平成30年6月18日(月) 15:00〜16:00
参加者:57人(利用者 54 人+職員 3 人)+スタッフ等関係者 7 人

▼報告書

画像クリックで拡大します。木村祐子(コーディネーター)作成。
*特別養護老人ホームえいめいの利用者さんのご家族へ配布したものです。

 

▼ワークショップ終了後の関係者の声

石坂亥士のブログ(6.20)より

元の記事はこちら(文中画像も転載):http://dragontone.hatenablog.com/entry/2018/06/20/163118

紫陽花が、本当にキラキラしている様に美しく見える時期でもあるそんな梅雨時に、今年度のチームえいめいの仕事がはじまった。

特別養護老人ホームのえいめいでの、ワークショップである。

今年の1月に行って以来なので、結構間時間が空いたての開催。ワークショップを開始してから、何人かのお年寄りが旅立っていったのも事実で、まさに一期一会な濃密な時間なのである。

この期間の空いた時期に、自分でもいろいろな経験もあり、今回は、楽器的にも古いものを持って行ってみようと、当日閃いたのだ!!!

これは、某オークションでたまたま落札できた、アフリカの古い時代のジンベだ。

オークションでは、こんな歪な打面に写っていなくて、来てみてビックリな一品だった。しかし、この歪さが音の響きに複雑なフィルターをかけるカタチとなり、なかなかまろやかな低音と気持ちよい中音が生み出されるのである。

歳を重ねたお年寄りには、楽器も歳月が経過したものが好ましいかというチョイスが、今回は、とてもうまいことはまったカタチのワークショップとなったのだった。

そして、動くと音が鳴る仕様として装飾音用に、肩からかける亀のマラカスと古い鈴と古い馬鈴。

この亀のマラカスは、メキシコの秘境の儀式で仕様されるものと思われるもの。おそらく、動物の仮面をつけて、何日も走り回る儀式の時に腰に付けられていたものではないか?と推測している一品。

リクガメ系の亀と思うが、その中身をくりぬいて、中に小石を入れてあり、非常に良い響きなのである。

今は無くなってしまった、メキシコ・フォナートジャパンで手に入れたものだ。

やはり、子ども同様、造形的に興味深いものには魅かれる様で、この瓢箪に貝殻を配置したシェケレも結構な確立でお気に入りとなっていた。。。

こちらのカラバス(瓢箪)を半分にして鍵盤をつけた親指ピアノは、ざくろさんが上手い事使って、盛り上がっていた!!!

お年寄りから見ると、ヘルメットに見えるらしく、頭にのせたりして、みんな笑顔となっておりました。

毎回、何かを発見していくワークショップではあるのだが、今回は、対個人へと相当動いて、今までで一番汗をかいた回となった。

 

冒頭部分では、本当にゆっくりとジワジワと何かが浸透していく感じだった。

盛り上がる必要もないのだが、なんだか今回はだんだんと会場の空気やお年寄りの興味の感覚が盛り上がりをみせていった。

通奏低音の様に、俺が古のジンベで踊るでも踊らないでもない程よい加減の心地良いリズムを刻んでいく。

いろいろと試してみると、どうやら3拍子系のリズムがお年寄りには心地良いらしい。

そんな中、視界の片隅に、ガラガラを手にした、おじいちゃんが、眼光鋭く俺の方を見つめて、そのガラガラを歯切れ良く振るではないか!!!

ちょうど、その様を記録の岡安君がいち早く付き、「こっち、こっち!!!」と教えてくれている。

逆方向では、ざくろさんがおばあちゃん達と戯れているかの、キャピキャピした世界が展開している。。。。

小さい楽器を最適な場所に置いて配ってくれるスタッフさんや、チームえいめいのメンバー。

それぞれが、それぞれの役割を受け持ちつつ、非常に興味深い世界が展開されていくこと40分と少し。

なんだか、みんな新たな感覚を感じつつ、久々のえいめいでのワークショップは幕を閉じていったのでありました。

 

次回、会えない方もいるかもしれない状況は、より一期一会をということ、「今の瞬間」を意識できる、そんな時間を自分たちに与えてくれている氣もしたのでありました。

 

次回は、8月。

 

季節と音の関係が、何気に結構楽器を選ぶ上で影響があるのが、非常に興味深いのである。

 

石坂亥士のブログ(6.21)より

元の記事はこちら:http://dragontone.hatenablog.com/entry/2018/06/21/005620

18日の月曜日に、久しぶりに特別養護老人ホームえいめいでのワークショップがあり、その時の記録として今日はブログにアップしております。

「森は静かに動いている。」
という出だしから始まる、以下の映像作家の岡安君のfacebookの記事を以下に転写させてもらいます。
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森は静かに動いている。

昨日は5ヶ月ぶりのアーツ前橋「表現の森」特別養護老人ホームえいめいでの、石坂亥士さん・山賀ざくろさんによる活動の動画記録だった(リンク先は昨年の記録)。

老人たちと正面から向き合って演奏する・正面から働きかけることをしてみた。亥士さんざくろさん共通の変化だった。特別養護での活動も一年以上が過ぎ、即興ではあるものの変化は起きている。

「人間の心臓は三拍子。それでいくといいみたい。今日はリズムを使って、スイッチを入れることを心がけた。一度入ったスイッチは、切れない」

今日の亥士さんの言葉。終盤、彼は古い太鼓を打ち鳴らしながら会場を回った。身動きが出来ない老人もいるが、手元のマラカスを振り続けるおばあさんもいる。亥士さんに向かい挑発的に楽器を突きつけるおじいさんもいる。個々と向き合いながら、全体の温度が上げていくかのようだった。

その効果なのかどうかはわからないが、今日は老人同士で楽器を鳴らして笑ったり(これは特養ではなくデイサービスから来たのわりと元気な方たちだったようだが)、楽器を机の向こうの老人へ投げて、相手も投げ返したりと、老人同士の関わりもいつもよりあったように思う。

そして大げさに言えば、楽器を鳴らせない、目で亥士さんやざくろさんを追えるか追えないかの老人たちも、温度が上がっているかのように思えた。全て主観でしか言えないのだけど、場全体が目ではわからないくらいゆっくりと動いているような・・今までとは違う何かが起こったような気がした。

それだから演奏を終えた直後、汗だくの亥士さんにカメラ越しでつい「今日どうでしたか?」と聞いてしまった。そこで出たのが、「今日は色々試してみた。心臓は三拍子だから・・」という言葉だった。それを聞いて思わず「新しい気がしました」と言ってしまった。自分で言っておきながら、なんと間の抜けた言葉だろう、と思いながら。

えいめいでの活動は、今年もあと数回続く。今日感じたものは明らかにアートでしかなし得にくい領域の事象だったと思いつつも、それが社会的に何に役立つのかは、相変わらず言葉にするのが難しい。

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映像作家だからこそ持てる視点のものでもあるし、非常に興味深い。

このチームえいめいは、特別養護老人ホーム(以下、特養)へ押し売りとまではいかないが、押しかけていくのです!!!
勿論、コーディネートしてくれる木村さんが施設との調整をしてくれて、円滑に物事は進んでいきますが。

初めて、この特養の施設へ足を踏み入れた時、「これは、バックギヤに入れて速攻で後退!!!」という空気に満ちていた。。。

しかし、元来難しい方向へ舵を切っていく習性を変えることができなく、「ここには何かあるな!?」という直感で、この特養でのワークショプが始まっていったのだった。

これは、一般的な見方ではなく、あくまでも表現者と言う立場からの視点で、もの凄くやりにくい対象という印象でしかなかった。何と言っていいか、上手い例えが見つからないが、自分の知っている表現としては、こんな感じだったろうかと思う。

ある時、実家で飼っていた老犬の「ブン」の鎖が取れて、脱走してしまい、何日も見つからなかった。最終的には、警察が保護して保健所へ連れていかれ、檻に入れられていたとのこと。
それを、父が迎えに行って、檻の中のブンと対面した時には、ほぼ無反応で、外に出てようやく「おっ、元気出て来た!!!!」という風に走り廻ったという話が思い出されたのだ。

まさに、最初にこの特養を訪れた時に感じたのが、あまりにも「無」という表現が当てはまり、父がブンと対面した時は、こんな感じだったのかな・・・・???という無な空気感だったのだ。

それが、回を追うごとにその空気感も含めおじいちゃん、おばあちゃんの雰囲気も歓迎ムードな、あたたかなものに変化してきた感じがしているのだ。

勿論、こんな事に一切興味は無い!!!と憮然とした態度の方も居るが、そんなことは、俺やざくろさんの知った事ではないのである。(ざくろさんは、少しは気にしているかもしれないが・・・)

慰問の演奏や発表などは時々あるとのことだが、「チームえいめい」でのワークショップは、慰問なんて生易しいもんではないのである!!!

これは、表現者生命を賭けたある種の真剣勝負なのでもあり、言葉というものを自由に操れなくなった方々の感覚は冴えまくっているのだ!!!

外見や雰囲気に騙されてはいけないのである。全ての方々がそうとは言い切れないが、伊達に歳はくってないのが年寄りであり、昔であれば、長老として、それぞれのコミュニティに君臨していたであろう方々なのだ!

今回は、そんな片鱗を垣間見た感じがして、「おうっ、ようやくこの感覚が掴めたか!!!」と言われている氣さえしてしまった。

実際に、いつも俺の太鼓と違うリズムを手で叩いているおばあちゃんからは、「がんばぁれぇ!がんばぁれぇ!」と応援されてしまった。

「チームえいめい」で関わっているこの特養のワークショップは、今、自分に課された課題の様な氣もしてしまうくらい白熱した現場なのである。

岡安君の映像

岡安君の編集してくれた映像を見返してみると、今回のそれぞれのご老人の反応は、継続していたからこその、積み重なった反応でもあった可能性も感じとれ、何が正解かは分からないが、個人的には、彼らと音を介してやり取りしている時に生じる、良い演奏家との即興セッションの時に感じる音のやり取りの妙味があり、その感覚は間違いなくお互いが共有できている様に思える。

おそらく、この特養の方々の大半はその感覚もリセットされ、次回行く時には、新鮮な出会いに感じてくれているかもしれないが、自転車には、一度乗れれば、その後も乗れるのと同じく、この即興の音のやりとりの感覚を自然と身体と心が覚えていてくれるのかもしれないかな・・・。

まあ、そんなことはどうでもいいことで、フラットな身体と心で、その日・その場所に「チームえいめい」が行って、音や動きを介して交流するということと、それにプラスして、季節と心身と音や楽器の絶妙なバランス感ということな氣がする今日この頃であります。

 

岡安賢一(映像制作)のFacebookより

上記の文中にもある投稿を転載いたします。

小田久美子(コーディネーター)による報告

前回1月に実施した後インフルエンザ予防のための面会謝絶期間があったため、約5ヶ月ぶりの実施となった。石坂は所有している楽器の中で古い太鼓や亀を使ったメキシコの亀の甲羅の中に小石が入った楽器などをメインに使い、個人個人にアプローチしていった。山賀ざくろはカラバス(瓢箪を使った楽器)やマラカスなどを中心に個人やテーブルごとにセッションを行った。

石坂によれば、古い太鼓は張った皮がこなれて胴の木の部分が乾いているので音の丸みがお年寄りに合っている、また心臓のリズムに近い三拍子が今日は合っていたこと、村祭りのような環境(無反応は尊重し、変に押し付けないが音やリズムはある状態)を作っていくのが良いのではないかとのことであった。また、セッションを通して、日常生活で発生しているテレビなどとは違う楽器の音やリズムによって、人間の普段使われない回路/大人になるにつれてオフになっていく人のいいスイッチをオンにしていく感じとのことで、実際にオンになった人もいると述べていた。山賀も1人1人とコンタクトし、2人対面で遊んでいったということだった。目立った動きがなくてもじっと見ている人もおり、そのことによって一緒に場を作っている感じがあったとの感想もあった。今回初参加した群馬大学院生の狩野も、ワークショップ開始後じわじわと盛り上がる感じが印象的だったとの感想だった。確かにこれまでの回で反応が際立っていた利用者2名(男・女)がワークショップ開始後は寝ているかあまりリズムを刻んだりしていなかったが15分過ぎた頃から、女性はリズムを刻んだり、男性はふと目を覚ましてじっと見ている様子だったので楽器を渡すとスタッフの動く方角に鳴らしてくるなどエンジンがかかっているようだった。その後その男性の利用者は石坂と濃密なセッションを行っていた。岡安は、特養に来たばかりの回は岩にぶつかる感じだったが、今回5ヶ月のブランクがあってもリセットされた感じがなく、前回の続きのような慣れてきている印象をもったとのことだった。アーティストが近くにいない時には高齢者同士で楽器を渡し合って試している様子も見られた。

手や楽器を机を拭くように動かす利用者について特養に10年勤めているスタッフMさんに聞いたところ、その方はクリーニング屋で働いていたらしくアイロンをかける動きか、あるいはテーブルをこまめに拭いていたのではないかと推測していた。その利用者や他の利用者を含めそうした繰り返しの行動を行う利用者の姿を見ると、昔とても働き者だったんだなと思うと述べていた。特に女性は養蚕や製糸、和裁などの経験があり、特養に入ってきたばかりで認知もはっきりしている方は何もしていない状況が耐えられず、何かさせて欲しいと言われたそうである。そうした際には、施設で出る洗い物を畳むことをお願いしていた時期もあり、とても畳むのが綺麗だったとのことだった。現在では特養に入所してくる利用者は介護度が高いため、そうした機会は減ってきているとも言っていた。

終了後の話し合いで、今後は活動に関心のある施設職員の把握やワークショップへの参加ができるように調整していくことになった。
*編注:小田は2018年3月末にアーツ前橋を退職したが、今年度からはフリーの立場で本プロジェクトの記録とコーディネートに入っている

 

(編集・投稿=小田久美子)

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