【廣瀬・後藤×のぞみの家】インタビュー:のぞみの家 施設長・内藤浩一郎さん


※本稿は、展覧会「表現の森 協働としてのアート」(2016/7/22-9/25)に関連したインタビューです

外からの後押しで起こること

のぞみの家 施設長・内藤浩一郎さん

〈タイムカプセルプロジェクト〉の事前説明会にて

2013年に実施した〈空のプロジェクト〉に引き続き、〈タイムカプセルプロジェクト〉も陰日向に支え、見守り続けてくださっている施設長の内藤さん。これまでのプロジェクトを通して、内藤さんご自身が感じたことや母子生活支援施設の普段の様子について伺った。

 

再びのチャンスと普段の母子生活支援施設としてののぞみの家

――施設長にとって〈タイムカプセルプロジェクト〉はどんなものだったのでしょうか。

(う~ん…としばらく考えて)チャンス。再びのチャンス。子ども達にとっては創作活動に触れ合える場であって、お母さんにとってはある意味では癒しの場であったと認識しています。

 

――お母さんにとって癒しの場であったという具体的な様子はありましたか。

例えば、廣瀬さんとの文通。みなさん様々な事情で入居するので、なかなか手紙を出したりとかができないというか。中には平気な方もいますが、ご親族とのラインが切れてしまう方もいます。なので、なかなか手紙を書くような機会が失われてしまう中で、イタリアに住んでいる方と手紙のやり取りができるというのは、ちょっと心が癒されたのかなと。

 

――味覚をテーマにしたワークショップ(食事会)の時はお母さんの参加も多かったです。

あれ単純に食べられるというの大きかったと思いますけど(笑)。私自身もなかなか普段味わえないものを食べさせていただきました。

 

味覚をテーマにした会でテーブルに並ぶ料理。

 

――あの時に印象的だったのは、たくさん集まってくださったということもありますが、お母さん達同士が情報交換をしているような、しゃべっているところもあったように見られました。お母さん達同士のコミュニケーションというのは普段からあるのでしょうか。

一緒に行動される方もいらっしゃいます。普段からお付き合いされている方もいらっしゃいますが、施設ということで色々と制限が出てきちゃいますよね。

 

――制限というのは例えばどんなものでしょうか。

児童福祉施設なので、子どもにとってマイナスになりそうなことというのは、お勧めできない。普通のお家庭なら夜遅くまで(お店などで)お酒飲むことも可能だと思うのですが、ここでは20時過ぎに帰宅されることや泊まるのはちょっと…と、そういった制限がありますね。

 

――ああいう夜の時間に、みんなでご飯をたべるということ自体あまりないことなのでしょうか。

そうですね。それに、我々施設側だけだとお酒1つ出すということだけでも躊躇しちゃうということがあるんですよ。

 

――今回はワークショップの中でイタリアや日本のものを味わうということで、ジュースの他に大人の飲み物としてお酒や各地の水なども出てきました。

施設が時代についていかないというか。そういうところがあるのかなと感じました。

 

――お母さん達は、夜遅くまでかかる仕事はできないとか。

それは物理的な制約です。一昔前までは「良妻賢母」みたいなイメージが社会の中にあって、時代とともに変わってきて。でも、児童福祉施設なので、賢母というのを目指して支援していかなければというのが職員サイドにあるんですよね。でも、お母さんの自己実現も大切なのではないかという考え方になってきた。それでも、やっぱり「子ども第一で」と言ってしまいそうなのですが。ただ、今回みたいな形で我々だけではできないような刺激を外部からいただくようなことは、今後もいいことなのではないかなと思っています。

 

――私達のように外部からのぞみの家へやってきて、子どもたちと活動するような団体や個人の方はいらっしゃいますか。

そんなにいませんが、救世軍(前橋小隊/キリスト教の団体)さんが子ども会として来ていただいて、主に小学生相手に歌を歌ったりゲームしたりしています。あとは定期的に来ていらっしゃる方はいないですが、子どもと遊びたいという学生さんがいたり。以前、ピアノを教えたいという方もいらっしゃったんですが、子どもが元気すぎたからか、今はいらっしゃっていないです。ボランティアセンターを通じて、子どもたちと遊ぶ方を募集するような発信することもあったのですが…最近はあまりしていないですね。大体、外部の方からこんなことをしたい――例えば「みんなと歌を歌いたい」とお話をいただいて受け入れるという形が多いですね。それと保育実習の受け入れですね。

 

――児童養護施設は(テレビドラマなどの影響もあり)イメージが何となくでもつくけれども、母子生活支援施設は、社会の中の認知度としてはそんなに高いわけではないと思います。みなさんどこで知ってのぞみの家へたどり着くのでしょうか。

学生さんは、通っている大学がのぞみの家に近いので知っているようでした。みなさんこちらからボランティア募集をかけてそれに応じてくるというよりは、なんらかの形で情報を得てたどり着いた人です。ただ、(先ほどのピアノの件のように)ご自分の考えていたものと子どもの反応が違うこともあるようです。救世軍さんは月1回いらっしゃいます。一緒に遊ぶことが多いようですが、工作などのものづくりの活動も時々あります。子どもが少々悪さしても、寛大に対応してくださいます(笑)。小隊長さんが赴任されて入れ替わりながらも、20年くらい来ていただいています。
また、市の社会福祉協議会を通じて、果物をいただいたり。そういうのはありますね。年末の母親集会の時は、歳末の寄付が集まったものを皆さんにお配りしたりもしています。ニュースにあるような、朝起きたら突然ランドセルが施設の前に置かれていた、なんてことは無いですね。

 

――今回、私達から19年続くプロジェクトをやりたいという提案をさせて頂きましたが、疑問や不安にと思うようなことはありましたか。また、今後19年間のプログラムをスタートさせる際に、既にのぞみの家から引っ越しされたご家族との連絡が課題だと感じています。

母子生活支援施設というのは、4月に入所して3年も5年もいますよというところではないので、1年も経たないうちにいなくなってしまうこともあります。関係性を19年間続ける上では、そこが心配です。
個人的にお母さんと話をして、退居後の連絡先を把握できる方はいいのですが、退居後さらに別のところへ移動される方や施設から連絡をしないでほしいという方も中にはいます。そうした要因でのぞみの家としても連絡をとることが難しい方もいらっしゃるので、悩ましいところですね。

 

――実際に、プロジェクトの途中からいなくなってしまったご家庭もありました。ものとしてはタイムカプセルに入れさせていただいたけれども、本人達にしてみたら、入ったのかな…?という印象かもしれない。逆に、タイムカプセルの封印の会に新しいご家庭の方達が多く参加してくださったことに驚きました。タイムカプセルという1つのラインの中で、色々な人が出入りできたのかなと。1回で完結するワークショップではそうはいかないです。そして、19年後にみんながまた集まれるといいなと思います。

 

表現の森展でのインスタレーションビュー Photo : KIGURE Shinya

表現の森展でのインスタレーションビュー Photo : KIGURE Shinya

 

活動の公開と匿名性

――今回の取り組みを通して、美術館に対してのイメージに変化はありましたか。

あんまりないですね、逆に。表現手段というのは色々あって、今回のような展覧会の形もありかなと常々思っていました。古典的な絵のイメージは、私の中には無かったですね。色々な表現があったらいいし、アーツ前橋のコンセプトがそもそもそういったものなので、あまり変化はないですね。ただ、なかなか前橋の土壌がアート的でないというか、そういうのは感じます。みんな真面目すぎるのではないかなと思うんですね。そんなこと言うと怒られちゃうかもしれませんけど(笑)。何か一歩前に踏み出すのに、前橋の人って…なかなかな~っていうか。

 

――面白そうとか、楽しそうとか…どうなるかわからないけど、自分の中で反応するものがあれば参加すればいいのになとは思いつつ、参加するための正しい理由をまず探したりする人が多いのかなと感じることはあります。真面目です。

その中で色々やっていく上で、のぞみの家は匿名性のことについてなど逆にこちらから相談しなければならないことは心苦しいと感じています。

 

――最近は肖像権のこともあるので、美術館で行うプログラムでも撮影した写真を記録や広報を目的に出してもいいですかとお尋ねして、嫌な方は掲載しないということで対応をさせていただいています。そうしたことでアートに接する機会が減るのはもったいないことなので、必要な手続きだと考えています。なので、展覧会の直前に、お母さん達への写真を展覧会で公開していいか確認のお時間を取らせていただきました。のぞみの家の場合では、「何で後ろ姿なの?」とか、「顔が出てもいいのに」というお母さんも一部ですがいらっしゃったので、難しいというか戸惑いました。様々な理由で入居される方のいる施設としては、あまり内部の様子を出さない方が望ましいことの方が多いと思うのですが、参加しているお母さんの中には「楽しい様子の顔が出ている方がいいのに」という声もありました。私たちも途中まで、みんながみんな公開はダメなのだろうと、正直まとめて考えてしまっていたんです。展覧会に関しては、子ども達が作った作品の要素として顔を隠せず、なおかつお母さんから許諾を得られた1人の子を除いては、後ろ姿やはっきり顔が見えない写真だけをこちらでも元々セレクトしていたので、結果的にあまり顔が出るものは展示しませんでした。

その辺はご配慮いただいて、ありがたかったです。

 

――のぞみの家の運営法人である上毛愛隣社の中で展覧会を見に行かれた方の反応はありましたか。

見に行った職員の中には「わけがわからなかった」と仰っていた方もいらっしゃいました(笑)。事前に話をしていたので、のぞみの家との廣瀬さんと後藤さんとのコラボレーションというのは分かったと思いますが、他の施設の取り組みも含め全体的に見ての反応だと思います。

 

――展覧会の中で他の施設の取り組みなど、印象に残ったものはありましたか。

太鼓(石坂亥士・山賀ざくろ×清水の会 えいめいの紹介展示)ですかね。表現の森展への子どもたちが行った時の様子のビデオを見たら、みんな楽しそうに太鼓を叩いていたので。

 

子ども達が表現の森店に来館した際の1枚。この日は、廣瀬・後藤の他に清水の会 えいめいでのプロジェクトを実施している石坂亥士と山賀ざくろも参加した。

子ども達が表現の森展に来館した際に、屋上の空の看板の前で撮影した1枚。この日は、廣瀬・後藤の他に清水の会 えいめいでのプロジェクトを実施している石坂亥士と山賀ざくろも参加した。

 

お母さんたちと〈タイムカプセルプロジェクト〉

――内藤さんとは、大人プログラムの廣瀬さんと手紙を交換されていましたね。

もともと筆不精なので…何を書いたらいいかと思って。1往復だけしました。廣瀬さんもフレンドリーで気さくな方なので手紙のやり取りは楽しいんだけど、ただ正直なところ自分のことで何を書いていいのかとも思いました。
お母さん方も何を書いていらっしゃるかわからないけれども。自分の今の、こう、素直な心境みたいなのを書いていらっしゃるのかなと想像しています。

 

――今回は手紙のやりとりが多かった方もいましたが、そうでない方は参加は難しかったのかなと思います。あとは、手紙という媒体なのもあるんでしょうかね。メールとかは気軽に送れるけど、手紙は馴染みが薄いというか、気構えてしまうというか。

手紙ってだらだら書いちゃっていいのかな…みたいなね。私はだらだらと取り留めのないことを書きましたが(笑)。

 

――廣瀬さんはそういう気軽なやりとりでいいという感じでしたが、手紙だと不思議と構えちゃう部分もあるのでしょうね。また、前回の〈空プロジェクト〉は子ども達とのプロジェクトが多くて、最後に活動のふりかえりのスライドショーはお母さんに見ていただいたことはあったのですが、それを踏まえて今回の〈タイムカプセルプロジェクト〉はお母さんとのプロジェクトもやりたいという思いもあってプログラムを計画しました。展覧会が開けた後は、お母さんと子ども達を別で連れてくるような会も設定しました。毎回の参加率という観点で話せば難しい部分もありましたが、「いつでも参加したいときに参加してください。私達はいつでも開いています」というメッセージを発信することの方が、大事だったのかなと考えていました。
展覧会に一緒にお母さん達と行った日は、未就学児のお子さんをお連れの方はどうしてもお子さんの見守りに気をつかわれた部分もあったと思うのですが、小学生のお母さんなど個人で参加出来た方はリラックスしていた印象をもちました。

お母さん達も楽しかったと思います。なので、私がみなさんと一緒にお邪魔した時(タイムカプセルの封印の日)も、気楽にアーツ前橋にも来ていただければと話しました。ただ、初めての方が多かったのもあるかもしれませんが、なかなか子どもが小さいと美術館行くのはハードルが高いと感じますよね。ご自分がよっぽど絵が好きだったりすれば連れて行ったりするんでしょうし、子どももわけわからないながらも見るんでしょうけどね。

 

――あと私達が設定した会以外でも、個別で美術館に来てくれた方達もいて、うれしかったです。ご家族2組で来てくださったり、久しぶりにできた家族3人水入らずの休みの日に来てくださった方もいらっしゃいました。それと、施設のスタッフさんが小学生の子どもたちを連れて来館された時もありました。たまたまスタッフがアーツ前橋にいたので、お会いできたんですけど。そういう、普段行き辛いと思われている美術館に、自分達の作品が展示されているので来てくれたのかなと思うのですが。

せっかくこのようなつながりをいただいて、アーツ前橋ものぞみの家も前橋にあるので、何とかもっとお母さんや子ども達も積極的につながりがもてればと思います。

 

内藤さんが廣瀬さんへの手紙に同封した、廣瀬さんの似顔絵

 

――2013〜2014年にかけて建物を建て替えて、マンションタイプに新しくなりましたよね。新しくなった施設で今後取り組んでいきたいということはありますか。

新しくなってから、フェルデンクライスなどの体操をしました――1回だけですけど。そういった行事や企画みたいのは色々やりたいという気持ちはあって職員同士は話し合うんですが、現実の壁の前に挫折しちゃうんです。料理教室やろう、でも施設だと狭いから近くのコミュニティセンターにしようか、お母さん達が都合いいのはいつか、その教室を行っている時間の子ども達はどうするのか、とか。逆に外から来て、後押ししてくれる人がいると行いやすい部分はあるかもしれないです。

 

――お母さん向けに他にはプランはありますか。

地味なところでは手芸教室とか。ずっと昔は、社交ダンスをやりました。多くて5人くらいの参加者ですね。そして会を追うごとにだんだん減ってきて、無くなってきちゃうみたいな。みなさんご自分の生活が大変だから、そういうのに参加する気持ちの余裕がなかなかもちづらいのだと思います。

 

――どんなものだったら参加してみたいと思われるのか知りたいですね。そういえば以前、あるお母さんが廣瀬さんに「イタリアのお母さんはどんな感じなんですか」とお聞きになられたそうです。例えばですが、イタリア語を勉強していつかイタリアへ行くことに備えるとか、次や未来に繋がるかもしれないおもしろいことができるといいですよね。プロジェクトについて知らない人からしたら、なぜ英語ではなくてイタリア語なの?と思われそうですが(笑)。

 

(インタビュー=2016年11月2日、のぞみの家にて/聞き手=後藤朋美、小田久美子、今井朋/構成・投稿=小田久美子)

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