【石坂・山賀×えいめい:レビュー】リズムが心に触れる瞬間を、映像で捕えること(文=岡安賢一)


※デイサービスセンターえいめいでの活動に映像制作で入っていただいた岡安賢一さんによるこれまでの施設での活動に関するレビューです。

 

リズムが心に触れる瞬間を、映像で捕えること

 

文=岡安賢一[おかやす・けんいち/映像制作]

 

アーツ前橋の展示では、壁に映しだした映像で、高齢のデイサービス利用者の方たちが輪になって即興演奏をする場面がある。あれは、幾たびとワークショップを行った後の最後の撮影での演奏だった。展示会場ではそれを最初に観るので、あたかもスムーズに事が進んだように思わせてしまったかもしれない。が、そこに行き着くまでには演奏を聞く事から始まり、自らが音を出すに至るまでの積み重ねがあった。そう、始めの頃は「利用者の中には認知症の方もいて、練習の積み重ねは難しい」という話も出たが、確かに積み重ねはあった。あの映像に至るまでに何があったかについて書いてみようと思う。

 

「アーツ前橋が行うワークショップの映像記録を撮ってみない?」アーツ前橋学芸員の今井さんから、そんな電話をいただいた。アーツ前橋には、開館当時に「前橋のCMを作る」という連続講義があり、その一連のサポートとして参加をさせていただいた。聞くと、太鼓奏者とダンサーが高齢者施設に行ってワークショップを行うという。展示の際に「音」は掲示できないので、映像で撮ったものを会場で流したい。外部から人が入る際にはコミュニケーション力が必要で、僕の顏が浮かんだという話だった。アーツ前橋に関わらせてもらうことは光栄だし、日頃のほほんとしていて良かったな・・・というか、このプロジェクトの一連はどんな展示をするかと同じくらいに人間関係が大切なのかもしれないな、などとぼんやり思ったことを覚えている。

4月から7月にかけて月2回程度、前橋市内にある「デイサービスセンター えいめい」を訪れた。訪問初日、玄関脇の個室で「ここで手を洗って、うがいをしてください」と言われた。施設にとっては当たり前の事だが、その一動作が加わるだけで「普段と違う場所に来た」と空気がキリッと変わった気がした。その後お会いした保健師の木村祐子さんは笑顔の柔らかい方で、期間中ずっと施設とアーツ前橋との橋渡しをしてくださった。えいめいのイメージはその後も「施設としての役割はキリッとしながらも、ケアする皆さんは柔らかく優しい」というものだった。

神楽太鼓奏者である石坂亥士さんは、知り合わなければ街角では目は合わせないな、といういかつい外見(!)をしながらも、裏表のない真っすぐな方で、初対面の「どういう風に映像を作るか希望はありますか?」という僕の質問に対し「任せるよ」と言ってくださった。それですっと楽になり、いい協働関係が築けたと思う。ダンサーの山賀ざくろさんは、コミカルな動きで皆の笑いをとる一方で、目の奥には何やら凶暴なものを秘めた(?)不思議な方で、以前から組んで活動しているという亥士さんとざくろさんのコンビネーションは、時にスムーズであったり予想外であったり。撮影をしていく中で、僕の仕事は「彼らの特出したリズムが、利用者の方たちの心に触れる瞬間を撮る」ということだと気付いていった。

 

撮影をしていると、どうしても注目する人が出てくる。面白いことに、撮影序盤で注目しカメラを多く向けた人たちと、撮影後半で注目した人たちは別の人だった。その理由として僕が思うのは、序盤は主に亥士さんたちのパフォーマンスを聞く・見ることが主だったので「してもらうことを楽しめる人」が元気になる。高齢者施設では時に学生による訪問演奏なども行われると思うが、それはこれと同じことだと思う。そして撮影後半では、利用者の方たちには自らで楽器を演奏することが求められる。そうすると今度は「自分ですることを楽しめる人」が元気になる。また、高齢者の特徴かもしれないが、最初からノリノリで演奏する人は稀で、火がつくまでには時間がかかる。亥士さんは、時に利用者さんとマンツーマンで楽器のセッションをし、一人また一人と徐々に、リズムの火をつけていった。そして撮り終えてみれば、「してもらうこと」を喜ぶ顏よりも「自分ですること」を喜ぶ顏の方が魅力的だった。

撮影の際には気付いていなかったことに、編集の段階で気付くこともある。耳元で大きな声で話さないと聞こえない耳の遠いおばあさんがいた。さらさらさらと波のような音がする楽器を耳元に当てても「聞こえない」という。彼女は太鼓に興味をもち、韓国楽器のワークショップを行った際にはとても楽しそうに銅鑼を叩いていた。その「ダンダーン、ダンダーン」というリズムが、ワークショップ冒頭に亥士さんが叩いた韓国の挨拶のリズムとほぼ同じだったことに、後の編集段階で気付いた。彼女にもちゃんと届く音があり、彼女の中ではきちんと、音による対話が行われていたのだ。

また、利用者さんたちの中で一人、ベッドに寝たきりでほぼ声も出せないおばあさんがいた。銅鑼を叩く軽めの棒も持ち上がらず、はじめの頃は大丈夫かなと思ったものだが、サポートで入ったえいめいスタッフの質問にもきちんと頷き、自分で持てる軽いマラカスを渡された時にはその一音一音を確かめるかのように手を動かした。何気なく彼女を固定カメラで撮影しておいたのだが、映像を見返すと彼女の目がスタッフや楽器を鳴らしている人たちの間を見回すようによく動いていていた。動きは最小限ながら、彼女は彼女なりにあの時間を楽しんでいたのではないだろうか。

 

表現の森の展示は、耳の不自由な方が普段以上に来館されることが想定され、話し言葉に文字テロップを入れることになった。その作業をしていて一つ意識的にしたことがある。物知りなおじいさんがいた。休憩時間、他の利用者の多くが談笑したり静かにお茶を飲むなか、彼は一人新聞を読んでいた。歴史や社会情勢に詳しく、話しを聞くと止めどなく言葉が溢れ出た。編集の際に、自分でやっておいていじわるだな、とも思ったのだが、彼が亥士さんに向かって話すとめどない話しを途中からテロップとして起こさずに、その隣でスタッフが話す「飲み物何にしますか?」という言葉のみをテロップとして表記した。些細な事なので見て何か思った人はいないと思うが、個人的には、僕らがいなければ彼の言葉は誰によって聞かれるのだろうか、ということを考えていた。

数十人の利用者がいる中で、数人のスタッフが見て回ることには限界がある。もちろんえいめいのスタッフは懸命に従事していたが、物知りなおじいさんの止めどない話しを常に聞き続けることはできないに違いない。亥士さんは今回の自分の立ち位置について「一番大事なのは高齢者の方と自分が対等ということで付き合いをすることだと思った」と語った。ケアの現場では主に、場合によっては家庭でも、面倒をみる・みてもらうの関係になるので、対等の関係を維持するのは難しいだろう。けれどこのワークショップでは「人生経験が豊富だからこそ、身体が不自由だからこそ出せる音がある」という亥士さんの言葉が示すように、利用者の方の意思・表現を尊重する姿勢で事が進んでいった。

物知りなおじいさんはワークショップ中、銅鑼を自らで叩いた後に「船が出るぞー」という言葉を発した。それは、彼がむかし船着き場で見て聞いた記憶が、銅鑼の音によってふと甦ったことにより出た言葉であった。編集で繰り返し見たからということもあるが、その時の銅鑼の音、彼の声は、この先も忘れがたいものとなった。一人ひとりの身の上話しを聞き続けることは難しいが、今回のような「表現」というかたちで、利用者の方たちの内から出るものを受け止めるという行為は、通常の施設運営では難しい「心の対話」を促す行為なのかもしれない。それは、とても意味のあることだと思う。

 

撮影を全て終えた後、再度えいめいを訪れた。それまでに撮りためたものを短く編集し、利用者の方やスタッフを対象とした上映会を行ったのだ。室内が暗くなり、利用者の方たちが様々な楽器を演奏する様子がスクリーンに映る。すると、小さな声ではあるが笑い声や「〇〇さん映ってるよ」という声が聞こえてきた。後の表現の森シンポジウムにおいてアーツアライブ代表理事の林さんが「高齢者を対象に継続的に行った絵を描くプログラムでは、しだいに互いの絵を褒めだした」という話しをしていたが、この上映会の場でも、そのはじまりのような互いを褒める瞬間があった。とても良い時間だった。

表現の森の展示は終了し、数ヶ月がたった。けれど先日、アーツスタッフや亥士さんやざくろさんは再びえいめいを訪れ、利用者の皆さんとワークショップを行ったそうである。この積み重ねがどこに行き着くのかはわからないが、リズムが鳴り響く先には、よいことが起きそうな予感がしている。

 

Photo by KUGURE Shinya *一部加工しています

Photo by KIGURE Shinya *一部加工しています

 

関連動画

アーツ前橋「表現の森 協働としてのアート」展(2016/7/22-9/25)で展示した「RYTHM 打! えいめい」の様子や、施設関係者へのインタビューを以下の動画にてご覧いただけます。

「RYTHM 打! えいめい」


▶ワークショップの様子のダイジェスト映像。その日、その時間だけのリズムが生まれました。*後半10分は休憩映像です

「演奏者たち」


▶ワークショップに参加するデイ利用者の様子とインタビュー映像。リズムを通して生まれた変化や思い出された記憶はどのようなものでしょうか。

「ケアの現場から」


▶デイサービスのスタッフを対象にしたインタビュー映像。普段行っているレクリエーションとの違いや、利用者の方の様子についてお話ししています。

「RYTHM 打! えいめいライブ」


▶「表現の森 協働としてのアート」展(2016/7/22-9/25)の会期中に、関連イベントとしてアーツ前橋ギャラリーにて実施したライブの映像です。

 

(投稿=アーツ前橋 小田久美子)

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