アーツ前橋

アーツ前橋について

建築について

アーツ前橋は市街地中心部にある既存商業施設のコンバージョンをおこない、本格的な公共美術館として生まれ変わった建築です。美術館を誕生させると同時に、街のにぎわいの創出につなげることを目的としています。
立地条件が美術館としては圧倒的にまちに近い存在であるため、さまざまな意味でまちと美術館をどうつなげていくかということが大切なポイントと考えました。建築のデザインとしては、①施設全体を周遊する散歩道のような美術館とする、②既存建物の姿(記憶)を大切にしコンバージョンの魅力を最大限引き出す、③展示ばかりでなく市民が積極的に利用できる魅力的な場所づくりをおこなう、という3つを大きな考え方として計画をしています。
建築の外観は既存外壁に沿って孔があいたアルミ材で、新しい衣をまとうように外形を形づくることで、新たなまちの顔としての表情づくりをおこなっています。また、美術館内部は平面的・断面的に多様なヴォリュームの展示室が連続しながら施設全体をつなげていく構成が特徴的です。来館者がぐるりと施設をめぐる間に、展示室間に設けられたさまざまな矩形状・寸法の開口部を介して、鑑賞する作品や、建築自身の魅力、施設内の人々の活動と多様な距離感を感じながら出会うことができます。
市街地の活性化は一朝一夕に実を結ぶ訳ではないですがその一翼を担えるような、自律的にまちにつながっていく新しいタイプの美術館となることを期待しています。

水谷俊博
みずたに としひろ/建築家・武蔵野大学准教授

1970年神戸市生まれ。京都大学大学院工学研究科建築学専攻修了。株式会社佐藤総合計画を経て、2004年水谷俊博建築設計事務所設立。第37回SDA賞地区デザイン賞(2003年)、日本建築協会第51回青年技術者設計計画部門顕彰(2004年)、町田市鶴川駅前公共施設設計プロポーザル入選(2008年)、東京デザイナーズウィーク2010学校賞GRAND AWARD賞 受賞 (2010) 、住まいの環境デザインアワード特別賞(2011)など。主な建築作品に『Off The Wall 石神井台の家』(2010年)、大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2009出展作品『アーチの森2009』(2009年)、『One Plus(+) One 羽鳥の家』(2007年)など。著書に『建築思潮05漂流する風景・現代建築批評』(1997年 学芸出版社 共著)、『文化がみの~れ物語』(2002年 茨城新聞社 共著)、『環境デザインの試行』(2007年 武蔵野大学出版 共編)など。建築設計の他、武蔵野市、西東京市、東京都豊島区などでまちづくりワークショップ・プロジェクトを手がける。現在、武蔵野大学環境学部環境学科都市環境専攻准教授。

アーツ前橋プロポーザルコンペティションについて

今回の建築工事の設計者は、平成22年12月~平成23年2月にかけて行われた全国公募の「前橋市美術館(仮称)プロポーザルコンペティション」により決定しました。
 選定委員からのアドバイスもあり、若手建築家に広く門戸が開けられるように応募資格が設定され、応募者の平均年齢は48歳でありました。
 1次審査を通過した5者による公開プレゼンテーション・最終審査を経て、応募130の提案の中から、水谷俊博氏(水谷俊博建築設計事務所一級建築事務所・東京都)が最優秀となりました。
 また、本プロポーザルコンペティション開催後、応募者の公開許諾を受けた作品を一同に集め一般公開しました。

プロポーザルコンペティションの結果と概要

結果

最優秀賞

057水谷俊博 水谷俊博建築設計事務所一級建築士事務所(東京都)

優秀賞

145山口浩司 株式会社岡部憲明アーキテクチャーネットワーク(東京都)

佳作

010北村紀史 魁綜合設計事務所(東京都)
037今村雅樹 今村雅樹アーキテクツ有限会社(東京都)
151杉浦洋史 株式会社県設計+生物建築舎+小阿瀬直建築設計事務所(長野県)

選外佳作

針生承一 株式会社針生承一建築研究所(宮城県)
田中美都 株式会社TASS建築研究所+熊本大学田中研究室(熊本県)
田中大朗 株式会社田中大朗建築都市設計事務所+株式会社デザインキット(東京都)
吉松秀樹 アーキプロ(東京都)
遠藤克彦 株式会社遠藤克彦建築研究所(東京都)

応募登録数:175
提出作品数:130

概要

名称:前橋市美術館(仮称)プロポーザルコンペティション
方式:2段階方式による公募型プロポーザルコンペティション

応募資格:次の要件をすべて満たすものとします。
ア 総括責任者は、建築士法(昭和25年法律第202号)第2条に定める一級建築士の資格を有する者。
イ 応募登録時までに、応募者が所属又は代表する企業が建築士法(昭和25年法律第202号)第23条の規定による一級建築士事務所を登録している者。
ウ 総括責任者は、次に掲げるいずれかの施設について、新築または改築(改修も含む)に係る実施設計の業務(業務の完了日が平成2年4月1日から平成22年3月31日までのものに限る。)において総括責任者、主任技術者、またはこれと同等と認められる実績があること。
① 公立・私立を問わず美術館のほか、文化・交流・公益施設等
② 日本国内で完成した、国・地方公共団体または公益法人が発注した、延床面積1,000㎡以上の公共建築物等
 実施期間:募集要項、応募様式等配布
平成22年12月3日(金)~平成23年1月19日(水)
応募登録
平成22年12月3日(金)~平成23年1月7日(金)
応募書類の提出期限
平成23年1月19日(水)
第1次審査
平成23年1月21日(金)
第2次審査(公開プレゼンテーション 会場:シネマまえばし)
平成23年1月30日(日)
第2次審査結果発表
平成23年2月上旬予定

選考委員:委員長  石田 敏明(前橋工科大学建築学科教授、建築家)
副委員長  高橋 晶子 (武蔵野美術大学造形学部教授、建築家)
委員  池田 政治 (東京藝術大学美術学部長、前橋市における美術館基本計画検討委員会委員長)
委員  真室 佳武 (東京都美術館館長、前橋市における美術館基本計画検討委員会副委員長)
委員  板井 稔 (前橋市政策部長)
委員  牛込 益次 (前橋市建設部長)
   (敬称略。役職等は当時のもの)

事務局:前橋市政策部文化国際課文化振興係

石田敏明選考委員長講評

街なかに既にある旧商業施設の地下1階から地上2階までを市立美術館にコンバージョンするという本プロポーザルコンペティション(以下、コンペ)で求められたのは、従来の美術館とは異なるまちの賑わいの創出につながることを目的とした創造的なアート活動のハブ(拠点)としての新しいタイプの美術館である。立地の読み解きや関連施設(シネマまえばし・前橋プラザ元気21)との関係、既存建物の寸法や構造的な制約、法規の遵守など必ずしも提案の自由度が高いコンペとはいえないが、新たな空間的付加価値を見出し、次世代につながる新しい提案を求めた。

こうした問いかけに対して全国から登録数は175者(社)あり、内応募数は130者(社)であった。デザインの傾向として既存のエスカレータ部分の吹き抜けを中心に美術館ホールやホワイエとしたプランニングが比較的多く見られたが、設計コンセプトの構想力と実現方法の具体的な提案に対して審査を行った。一次審査ではそれぞれ6名の審査委員が推薦作品を複数選出し、1票入った案までを議論の対象とし、それぞれの立場から意見交換を行った後、2回目の投票を行った。この時点で20案程度に絞られたが、建物の訴求力や街への開き方、運営面や来館者の施設の使いやすさ、セキュリティ、実現性等の具体的な問題に対して議論を重ね、更なる投票を行ない、10案に絞り、得票数の多い案から上位5案を二次審査通過作品(公開プレゼンテーションとヒヤリング対象作品)として佳作以上と位置づけ、他の5案を選外佳作とした。

二次審査通過作品は公開プレゼンテーション当日、本対象施設3階の空中歩廊に公開展示された。公開プレゼンテーションとヒヤリングはシネマまえばしのシアター(定員100名程度)で行われたが、会場の許容人数をはるかに上回る170人超の観客数があり、本コンペの関心の高さが窺われた。プレゼンテーションの順番は当日、抽選によって決められ、ヒヤリングは他の提案者が同席しない形式とし、コンペ応募の動機や提案図面からは読み取れない内容、疑問点、現実性などそれぞれの提案者に対して共通の質問をすることで審査の公平性が配慮された。

公開プレゼンテーション(15分)とヒヤリング(15分)の後、最終審査は実績や設計体制など業務実施方針書も参考にして別室にて非公開で行われた。ヒヤリングを通して得られた情報を審査員は共有した上で、各提案について本プロジェクトの業務期間、施工期間等を踏まえて新規性、実現性、技術力、機能性、メンテナンス、サステナブル性などについて、それぞれ意見を交わし、審査員全員の合意に基づいて決定することを確認した。最終選考に残った5案は、本コンペの要項を読み込んだ上で真摯に対応した佳作であることは充分に理解できたが、それぞれ問題点も指摘され、残念ながら圧倒的な支持を得られた作品はなかった。 <No.037>の提案は大胆な壁面緑化にある。環境面への配慮や視覚的には訴求力がある一方、現実的には南面の日当たりや冬季の上州特有の季節風が西面緑化に与える影響とメンテナンスに確証が得られないとの意見が出された。また内部においては、いくつかの吹き抜けを通して3層の視覚的なつながりが魅力的な一方、鑑賞空間としての展示方法や外光の影響などが危惧されるとの意見があった。<No.151>は「ゴースト」とネーミングされた白いテフロン膜で囲われた発光体となるホワイトキューブの展示空間が魅力的である一方、展示空間のスケールや技術面、メンテナンス面などが危惧された。次に<No.010>、<No.057>、<No.145>についてそれぞれの提案内容について踏み込んだ意見交換をした。<No.010>は公共空間とバックヤードが明確に分かれていることや実績面、運営面、設計体制の手堅さは評価されたが、街路よりセットバックしたピロティの扱いが賑わいを創出できないのではないか、パブリックアートや地下の展示手法において提案性に欠けるなどの意見が出され、それ以上の評価が得られなかった。次に<No.145>と<No.057>を比較しながら協議した。<No.145>の提案は既存エスカレータ部分の吹き抜けを拡張し、地下から地上2階までの3層を貫いた「アートウェル」とネーミングされた井戸のような展示空間である。ダイナミックな空間はインパクトがあり、印象的である一方、かなり閉じた空間であり、大きな壁面を鑑賞する距離が充分でないため、その効果が問題視された。実績面や設計体制等の総合力において最も説得力があり、最後まで議論の対象となり、優秀案とした。<No.057>は「アートリング」とネーミングされたアート・プロムナードがアートスペースを取り巻く空間構成は応募案のほとんどが吹き抜けを通して、層をつなぐ構成であるなか、際立ったユニークさがあり、既存の建物をコンバージョンする斬新さと楽しさが評価された。一方、団体客が利用する際の上下階の動線処理やライブラリーの扱いなど、イメージが先行するあまり、いくつかの具体的な問題が危惧されるが、今後、基本設計、実施設計により充分に調整可能であり、対応できると判断して最優秀案とした。まちの賑わいの創出につながることを目的とした創造的なアート活動のハブ(拠点)としての新しいタイプの美術館になることを期待したい。

本審査は審査員たちの最後まで熱心で真摯な議論がなされた結果であることを明記する。

(関連写真:最終プレゼン会場風景、公開展示会場風景等)

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