【滝沢達史×アリスの広場】ゆったりアウトドア (1)


事の始まりは僕がアウトドアが好きだから、という無責任なものだったと思う。そんないい加減な思いつきを実現したいと思い始めたのは、Kさんの言葉を聞いてからだった。Kさんは28歳女性。慣れてきた僕とも目を合わせることができないほど対人関係が苦手で、外泊も、温泉も、釣りも、した事がない。そんな彼女が僕の目も見れないのに、「行ってみたいです」「釣りもしたいです」と固く口を結んだ姿に心が動かされた。

アリス美術部に参加している子たちは皆そうなのだが、なぜ来ているのだろうと思うほどに感情が見えにくい。しかし、ふと見える積極性に驚かされる。美術部を中心にアリス内で呼びかけた小旅行には若者が6人、アリス関係者が5人、アーツ関係者が5人。大人が多くなってしまったが、まあ、アリスの社員旅行でも良いかと、出かけることにした。

滞在に選んだ場所は群馬県中之条。ちょうど中之条ビエンナーレの開催期間中だったこともあり、美術部にはうってつけの場所だと思われた。表現の森「えいめい」プロジェクトで映像記録を担当している岡安さんが中之条在住ということもあり、アテンドをお願いすることにした。そして「のぞみの家」プロジェクトのアーティスト、後藤さんも誘うことにした。さながら「表現の森」旅行のようにもなってきた。

開催当日の朝、昨夜は眠ることができず3時間睡眠となってしまった。年甲斐もなく緊張していたのだと思う。集合場所に到着すると、若者たちも一様に眠れなかったらしく、一睡もしていないという子もいた。みんな同じだねと、お互い笑いあった。

活動のはじめは、釣り。やったことがないという若者ばかりだったが、若者は釣れ、大人は見事に釣れないという不思議な結果となった。若者の活躍で全員分の魚が釣れ、その場で塩焼きと唐揚げにしてもらった。後から気づいたことだが、魚釣りは秀逸なプログラムだと思う。旅の始まり、初対面の緊張感をほぐすのに「自己紹介」や「レクリエーションタイム」なんて最悪だと思っていた。それが、いきなり魚釣りだと全員が魚と自分の世界に入る。真剣な眼差しで水面を見つめ、人のことなど気にしない。そして魚が釣れたら、一同が「わっ」と一つになる。話もしていないのに、程なく連帯感が生まれていたのが良かった。

 

中之条に着くと岡安さんが待っていてくれた。岡安さんは黒髪のパーマヘアに口髭という容貌で、人の良さが全面に現れているような人だ。その顔を見ると僕はホッとするから、みんなもそう思ったと思う。中之条ビエンナーレ・ディレクターの山重さんも我々を迎えてくれ、会場を丁寧に案内してくれる。ディレクター自ら解説をしてくれるツアーは贅沢であり、その言葉は若者たちの鑑賞の目を広げてくれたように思う。見たこともないような表現、バカバカしいほどの労力、よくわからない美しさ。中之条をめぐる緩やかな時間を感じ、心地よさに揺られていた。共に回る仲間が初々しいと、こちらも新鮮な気持ちになる。芸術祭にどうしても行ってみたくて、無理して外泊にチャレンジしたというMさんに感想を聞いてみた。

「どの作品がというより、どれも良かったです。インスタレーションという表現が面白くて興味を持ちました。でも、店から店へ移動するなんて想像もしなかったことなので、町全体が面白かった。」

 

この後の宿泊は、源泉掛け流し、古民家旅館貸切、野外炭火BBQ、と最高のプログラムを用意した。沢渡温泉郷「金木旅館」の貸切温泉にゆったり浸かり、浴衣に着替えてバーベキュー。野外での食事が初めてという子が多い中、みんなよく食べている。『外では食事ができないので私のことは気にしないでください。』と言っていたMちゃんが、『食べられました!』とお皿を持っている。本人が嬉しそうなので僕も嬉しくなる。食後は、Mちゃん持参のベースで、イントロクイズ。ベースラインで曲を当てるのは、マイナーなゲームで愉快だった。後は、思い想いそれぞれの過ごし方で夜更けまで過ごし、いつしか若者同士が輪になって話をしていた。同じ年頃、同じ悩み、同じような苦しみ、少しずつ自分を出せているようだった。

 

 

 

翌日は滝沢が鰹節を削り味噌汁作り。ボランティアさんの手前味噌、梅干し、おにぎり。朝食は素朴な素材で料理を食べて欲しいと思った。

    

 

2日目も1日たっぷりと作品を見て回った。岡安さんの計らいで、アーティスト山口信哉さんのハンドパン演奏で旅を締めくくることになった。イスラエル在住の山口さんが、今こうして中之条とイスラエルを行き来しながら作品を作っていることについて、美しい楽器演奏の後にお話を聞かせていただいた。作品の素材、住むところ、作っているもの、それらを選んだ理由を山口さんは「好きになってしまって」と、シンプル微笑む。その表情はあまり社会では見られない顔に見える。若者たちには、そんな大人にもたくさん触れてもらいたい。可能性を自分で作ることも可能だ。

この旅行ではアリスの仲間にとって、たくさんの奇跡的なことがあった。しかしそれは普通の人が聞いても取るに足らないことだと思う。でもそんなことが、人知れずひっそりと行われていて、その瞬間を共に居合わせることができたのは、幸せなことだった。今回の旅行を支えてくれた岡安賢一さん、そして、中之条ビエンナーレ・ディレクター山重徹夫さん、金木旅館様、この企画を支えてくれた多くの方々に感謝申し上げます。

(執筆・投稿 滝沢達史)

中之条ビエンナーレ http://nakanojo-biennale.com

古民家の宿 金木 https://sawatari-kaneki.jimdo.com

 

          

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