ゆったりアーツ


「ひきこもり」

月に一度、そう呼ばれる人たちと、何かをしている。ひきこもりという呼び名はしっくり来てないが、とりあえずそう呼んでいる。事情は様々なので、「少し休んでいる人たち」というのが近いのかもしれない。今回は恒例となっている休館日の美術館に行く「ゆったりアーツ」。しかし、スケジュールの都合上、開館日に出かけることになってしまった。これは初の試みになるが、幸か不幸かアーツ前橋はとても静かな美術館だから大丈夫である。今回のレポートも若者に頼んでみたが、美術館に出かける感想を聞くのは初めてになる。こんなふうに考えていたのかと感心した。

 

『適度な距離感』

集団行動や、他人とのコミュニケーションが苦手な私にとって、『適度な距離感』が許されるゆったりアーツはとても居心地が良いです。

自分のペースで作品を見られるし、作品に対して自由な感想を持っていいんだ、と思えるような空気感が嬉しいです(その感想も、発言を強制されたりしないので更に嬉しい)。普段のアリスであまり交流のない相手とでも、作品を前に“これ面白いね”とちょこっと一言かわすだけのコミュニケーションができたりするのも、ゆったりアーツの『適度な距離感』のおかげかなと思ったりします。

私は普段、家に引きこもりがちです。アリスの広場とゆったりアーツは、私にとっての第2の引きこもり場所であり、でも社会とは完全に切り離されてない(もしかしたら、ここから社会と繋がれるかも?)ちょっと希望の見える場所なのかなと、開館日に訪れるゆったりアーツを経験して、そうぼんやりと感じました。(M)

 

『輝くのは外界の側』

幼いころからコミュニケーションにあまり興味がなく、アリやバッタを半日追いかけまわしたり、なぜ手はしょっぱい時と、しょっぱくない時があるのかが気になって手を舐めまわしたりしているうちに、気味悪がられていつの間にか一人になっているような子供でした。そんな幼少期でしたから、私には友達と呼べるような人間はほとんどできず、コミュニケーション経験の不足はコミュニケーション能力障害となり、今の私に残りました。アリスの広場にお世話になったのは学校へ行かなくなってすぐでしたが、似たような傾向の方が多く、そこで初めて心が通じる人間に出会えた心持ちになったものです。

滝沢さん主催のゆったりアーツは、アリスの広場に通い始めて1年ほど後に始まりました。「アーツ前橋に行く」とブログで告知をされていたのを見ずにアリスに行き、流されるまま付いていったのが参加のきっかけです。

ゆったりアーツで巡る展示は主に現代アートばかりです。現代アートは往々にしてそうだと思いますが、その技巧的な部分や生の作品の迫力に驚くことはあれど、古典的手法を大きく逸脱した表現からは、作者のいわんとする意図や哲学などはほとんど読み取れないことが多いです。

当然私を含め、現代アートの知識がないほとんどのゆったりアーツ参加者にとって、現代アートは「わけわからん」ものでしょう。しかし、鑑賞中に「この作品わけわからんよね」などと言い合っているうち、私たちの間でポツリポツリと会話がもりあがります。全員がそうではありませんが、アリスの利用者は傾向としてコミュニケーションがあまり得意でない人が多いようで、アリスで出会っても慣れてくるまではほとんど会話しないこともしばしばあります。ところがゆったりアーツでは、そんな利用者の間でも、展示をきっかけにコミュニケーションがはじまることが良くありました。

ここで私は、保坂和志が新聞の文芸批評で語った言葉に「芸術は自己実現ではない、芸術によって実現し、輝くのはあなたではなく、世界、外界の側なのだ」というものがあったことを思い出しました。ゆったりアーツでは、「この作品はナントカという作家から影響を受け…云々」などといった批評とは無縁です。つまりゆったりアーツにおいて、私たちは作者と作品を理解し批評しようなどとは考えておらず、故に彼らの自己実現、すなわち他者からの承認を得ようという思惑には加担していないことになります。

ゆったりアーツではただ、鑑賞者同士が作品をきっかけに交流しているだけです。「わけわからん」現代アートですが、それは外界の私たちを照らし、逆説的に芸術の目的を実現しているのではないでしょうか。これはまさに保坂の言う芸術論そのものだと思います。私のコミュニケーション能力の欠如は根深いものですが、ゆったりアーツでの鑑賞を通し、いくらかほかの利用者の方と打ち解けるきっかけができたと思います。

現代アートに親しむのはまだなかなか難しいですが、利用者同士の交流を深める役割を果たしているのではないでしょうか。

というよりも、このことこそが現代アートや、これを鑑賞させる滝沢さんの目的なのではないかと、おこがましいことも考えています。(O)

 

 

 

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