【関連シンポジウム:記録】トークセッション① 「高齢者施設におけるアートの実践」


※展覧会「表現の森 協働としてのアート」(2016/7/22-9/25)の関連企画として開催したシンポジウム(2016/8/27, 28)の内容をお届けします。
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前橋市内のデイサービスセンターで2016年4月から4カ月間、月に2回のワークショップ「RYTHM 打! えいめい」を行った神楽太鼓奏者の石坂亥士氏とダンサーの山賀ざくろ氏。アーティスト二人のほか、スピーカーにはワークショップの様子を撮影し映像にした岡安賢一氏、施設とアーティストの調整役を担った木村祐子氏、ゲストには、長年高齢者とアートプログラムを実践している林容子氏を迎えた。そして本シンポジウム全体を通し石原孝二氏をモデレータに迎え、議論を進めた。

◎日時:2016年8月27日(土)13:15-14:15
◎スピーカー=
石坂亥士(神楽太鼓奏者)
山賀ざくろ(ダンサー)
岡安賢一(映像制作)
木村祐子(社会福祉法人 清水の会)
◎ゲスト=
林容子(一般社団法人 アーツアライブ 代表理事)
◎モデレータ=
石原孝二(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
◎進行=
今井朋(アーツ前橋 学芸員)

「RYTHM 打! えいめい」、「デイサービスセンターえいめい」にて(2016年) Photo: KIGURE Shinya

「RYTHM 打! えいめい」、「デイサービスセンターえいめい」にて(2016年)
Photo: KIGURE Shinya

 

デイサービスセンターで重ねた、音楽とダンスのワークショップ

今井:「表現の森」展を担当しております、学芸員の今井と申します。本日は皆さまご来場いただきましてありがとうございます。長い時間になりますけれども、どうぞよろしくお願いいたします。最初のセッションは、私たちが前橋市内の福祉施設「デイサービスセンターえいめい(以下、えいめい)」で行ってきたプロジェクトについて、ディスカッションを進めていきたいと思います。
最初に、神楽太鼓奏者の石坂亥士さんとダンサーの山賀ざくろさんのほうから、今回のプロジェクトについて、報告をしていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

石坂亥士氏 Photo: KIGURE Shinya

石坂亥士氏
Photo: KIGURE Shinya

石坂:石坂亥士と言います、よろしくお願いします。今回、隣にいる山賀ざくろさんと一緒にワークショップをしています。僕は高齢者施設というか、年齢の高い方がいらっしゃるところでワークショップをするのは初めてだったんです。普段は保育園、幼稚園、小学校などの子どもたちや、大人といっても自分と同じぐらいの年齢の大人との関わりが多いので、今回は初体験ということで、いろいろな思いもありました。ざくろさんはどうですか。

山賀:今回は4月から7月にかけて月に2回、ワークショップやらせてもらったんですけれど、亥士さんが日本や海外のいろんな楽器を持っていたので、毎回違う楽器を持っていきましてね。それを披露して、楽器を触ってもらうような形で行いました。

石坂:僕たちはおそらく、こういう積み重ねていくワークショップには向いていないメンバーかと思います。基本的には僕は即興の演奏家なので、道筋を決めないで進んでいって、一番いい状態のところというか、危ないようなところを進んでいく、という演奏が好きでやっていますが、ざくろさんも即興で踊られるダンサーです。

山賀:そうですね、即興の踊りをすることが多いです。それで、今回はどういうふうにやっていったらいいかと考えたところ、ワークショップ自体はあまりきっちりと組み立てず、持って行き方だけを亥士さんが決めて、亥士さんがこうやるなら私はどうしようかな、というのをその場で、即興でやっていった感じです。みなさんの反応を見ながら。

山賀ざくろ氏 Photo: KIGURE Shinya

山賀ざくろ氏
Photo: KIGURE Shinya

石坂:初めは自分たちの演奏や踊りを見てもらっていました。僕がいろんな民族楽器を持っているので、前回はインドネシア、今回はアフリカ、といったように国別で見せたり、毎回違うものを見せながら、最終的には楽器の演奏自体も覚えてもらったというか、こうやればいいんだっていうのを分かってもらって、最後はセッションをしたいね、と話していたんです。

山賀:展示している映像を見ていただければ分かると思いますが、最終日は皆さんでセッションという形で、ぐるっと円になったお年寄りのところを演奏しながら周り、また我々も演奏でこたえていくということをしていました。

石坂:だいたいそういうワークショップをしたりすると、だんだんと盛り上がりを見せてくるものですけれど、盛り上がらないんですよね。

山賀:そうでなくもないんですけれどね。やっぱり反応はまちまちだったと思います。お年寄りの方だからワーっとはなかなかならずにね。

石坂:ふつふつとはあるかもしれないんですけど、その盛り上がりが見えにくいっていうのがすごくありました。

山賀:確かに、ストレートに好きなことは乗ってくるけど、嫌なことは嫌だと、プイっとそっぽ向いちゃう方もいれば、気を使っていらっしゃる方もいる。その辺りのどうなのかな、という反応を探り探りで。それが難しかったところはあります。

石坂実際興味がない人もいたし、その反応はその反応でいいな、と思います。

山賀:「音がうるさい」とかね。

石坂:そのはっきりした反応はすごくよかったです。「嫌い」とか、「やらない」とか。子どもたちとやるときは「やらない人はこちらね」と別の選択もある感じなんだけど、今回イレギュラーなのは、みなさんは(半強制的に)円のなかにずっといるわけです。

山賀:毎回25人とか、30人近い方が参加されるんですが、そういう多数のなかでやる難しさもありました。もっとマンツーマンで一人の方にじっくり接することができれば、それでまた引き出せるものがあったと思うんですけども、それが難しかったですかね。

石坂:あとは本当、全員ではないですけれど、なんでこんなリズムが叩けるんだと、僕自身がすごい影響を受ける人もいました。

山賀:回を重ねるごとに、反応が変わる方もいましたね。そういう方たちに僕たちがピンポイントでアタックするっていうアプローチも少ししました。

石坂:僕とざくろさんのワークショップという形でしたが、今井さんや小田さん(学芸員)をはじめ、岡安さん、木村さんという6人のチームで動きました。普段、僕はチームでやらないんですけど、それがなんか面白かったです。

「RYTHM 打! えいめい」、「デイサービスセンターえいめい」にて(2016年) Photo: KIGURE Shinya

「RYTHM 打! えいめい」、「デイサービスセンターえいめい」にて(2016年)
Photo: KIGURE Shinya

 

 

施設の立場から——「チーム」になるまで

今井:石坂さん、山賀さん、ありがとうございます。お客さまのなかには、この展示をまだご覧になっていない方もいらっしゃると思うので、このプロジェクトの枠組みだけ簡単にご説明しようと思います。

このプロジェクトは、前橋市内の永明地区にある「デイサービスセンター えいめい」でのプロジェクトですが、アーティストのお二人と私たちでその施設に伺って、月に2回、これまでに計6回(のワークショップを)行ってきました。高齢者の方々が昼間だけデイサービスを利用する通所施設です。そのなかで「レクリエーション」という枠が施設のプログラムにあるんです。レクリエーションの時間はちょうど1時間設定されているんですが、私たちはそのなかでワークショップをさせていただきました。ですので毎回きっちり1時間、そして施設を利用されている方は全員参加をする、という形です。さきほど亥士さんがお話しされたように、ご希望の方もご希望でない方も全員参加しなければならない。そういった枠のなかで私たちは活動させていただきました。

次に「地域包括支援センター永明」で勤務され、今回このプロジェクトのコーディネーター的に、施設と私たちとをつないでくださっていた木村祐子さんのほうから、今回の活動について報告をお願いいたします。

木村:「えいめい」を運営する社会福祉法人清水の会で保健師をしている木村祐子と申します。皆さんはじめまして。今回、学芸員さんから「アートプロジェクトをしたいんだけれどどうですか」とお話しいただいて(*1)、初めて亥士さんとざくろさんが「えいめい」に来てくださったときに、何をやるかはよく分からないなっていうなかで日程を先に決めました。それで、月に2回だけどどうなるだろう、という感じだったんですね。
最初の頃、車いすが置いてある施設の玄関で、亥士さんとざくろさんが車いすを触りながら、どこに鈴を付けたらいい音が鳴るかと、遊び始めたのを覚えています。介護職員は「この車いすに楽器を付けて音を鳴らそう」とかは、まず思わないですよね。その姿を見て「何か面白いことが起こるんじゃないかな」というのが最初の期待でした。お二人はそのことを覚えていらっしゃらないようですけれど。

木村祐子氏 Photo: KIGURE Shinya

木村祐子氏(*1:木村氏は看護師として勤務後、群馬大学大学院教育学研究科で美術教育を修了。以前からアーツ前橋の教育普及事業等に参加されている縁もあり、「えいめい」でのプロジェクトを実施する上でも、アーツ前橋と施設の調整面等で大きな役割を果たしている)
Photo: KIGURE Shinya

それで高齢者の話になってしまうと、どうしても個人情報というのが付き物です。今回は展示をする企画展でもあり撮影もする、というところで、どのように撮っていくかがやっぱり課題の一つにはあがっていました。私はデイサービスとは部署が違うので、デイサービスの相談員を通し、撮影の許可やそれを公表してもいいという同意を利用者の方々にとっていきました。職員の協力もかなりあったので「撮影はいいよ」といってくれた方もいました。やはりこれが違う法人だったり、あまり知らないようなところだったら、いいよとはいってくれなかったんじゃないかな、というのは思っています。

実際に、亥士さんとざくろさんが高齢者の人と関わる姿を見ていますと、最初はやっぱり知らない人同士の関係なんですよね、それが、職員から見るアーティストってどういうふうに写るんだろう、とか、逆にアーティストから見た高齢者や職員の態度ってどういうふうに見えているんだろう、というのは、実は割とひやひやしながら見ておりました。でも亥士さんとざくろさんは、高齢者の方たちと本当に丁寧に関わってくださるんですね私も亥士さんとざくろさんと初めて会ってから間もなかったので、あまり言葉でのコミュニケーションをうまくとれなかったのもはありましたが、でも音を通して高齢者と携わっていく様子がはっきりと見えていたので、何かこのままお願いしても大丈夫なのかな、と。

そして、自分の考えを素直に伝えることが大事だと思いました。途中で、私が亥士さんとざくろさんの言葉にイラっとしたときがあったんです、実は。でもそれは、高齢者の方と関わってほしいという私の思いがあったので、素直に伝えたら、次の回のときに、本当に亥士さんとざくろさんが素直に自分たちの考えを伝えてくれて、施設のなかでやっていきたい、という思いが私のなかでも芽生えました。先ほど亥士さんがおっしゃってくださった、「チーム」ができていったような、すごくうれしかった出来事でした。

それから、楽器というか音を通しての表現、ダンスを通しての表現から、高齢者の方々の普段見られない表情が見られたんじゃないかなと、個人的には思っています。ぐっと目に力が入る瞬間が、普段、音楽とか踊りに携わってない私でも「おお」って思う瞬間があったので。それも高齢者の方にとっては、すごく楽しいひと時だったんじゃないかな、いうのを感じたところでした。

 

映像制作の立場から——何を撮ればいいのか

今井:木村さん、ありがとうございます。今回この展示にはたくさんの映像があります。活動のダイジェストの映像、参加してくださった高齢者の方々にインタビューをして編集した映像、それから施設のスタッフの方たちに、今回の活動がどう映ったのかなどインタビューをして編集をした映像などを展示しています。この映像制作と編集などを全て担当してくださったのが、岡安さんです。岡安さんのほうからもコメントをお願いいたします。

岡安:岡安と申します。僕は中之条に住んで映像制作などをしているんですけれども、アーツ前橋が開館のときに、前橋のCMをつくろうというワークショップがあり、通しでお手伝いをしました。そのときは、自分がカメラを回すことはなかったんですけれども、今回お声がけをいただきました。
今井さんとのやり取りのなかで「岡安さんにお願いしたのは、老人ホームに行ったときにも場に馴染みそう」といった話があって、納得しました。たぶん、もっと映像をうまく撮れる人はたくさんいるんでしょうけれど、今回のプロジェクトに関しては、そもそもカメラを回すこと自体、異物を持ち込むことですし、ご老人の方たちともうまくやっていく必要があると思って。そういうところでいうと、僕は普段からのほほんとしている感じなので、よかったのかなとは思っています。

岡安賢一氏 Photo: KIGURE Shinya

岡安賢一氏
Photo: KIGURE Shinya

ただ、今回のプロジェクトもなかなか前例がないことだと思うので、こうした映像をつくってくださいというオーダーもなくて、いざ飛び込んで1回、2回、とカメラを回してみたものの、果たしてこれが編集でまとまるのかな、とちょっと思っていたんですけども、印象的な出来事がありまして。現地ではプライバシーの関係だと思いますが、特にお名前を教えてもらうことってなかったんですけれど、私たちのなかではあだ名を付けていたんです。本人に直接言わないんですが、例えば草間彌生さんに似ている方がバーッと情熱的にたたいたりする、その人は「草間さん」と呼んだり。あるとき、亥士さんがインドネシアのドラをまわしていたときに、一人のおじいさんがそのドラをドーンとたたいて「船が出るぞーっ」ていうんですねそれはなぜかっていうと、昔そういうドラを聞いた覚えがあり、韓国的な文化が身近にあったから、という話もされたんです。その瞬間を映像に撮れたとき、楽器を通してその人の「何か」が出てきた、こういう瞬間を撮っていけばいいんだと。僕も何かできるかもと思いました。そういったものを集めたのが展示している映像になります。

一番印象深かったのは、最後の日に「えいめい」で上映会をさせていただいたんですけれど、スクリーンにバッと上映したとき、見ても分からない方もいたかもしれないんですが、大半の方は分かって「○○さん出てるよ」とか「太鼓うまいですよね」というと、「えへへ」なんていうおじいちゃんがいたり。その瞬間がよかったなと思いました。
プライバシー的なものに関しては、ワークショップで円になったときに映るのが駄目な人は片側に寄せてくださるなど、「えいめい」側の対応のおかげでワークショップをやる上でも、撮影をやる上でもやりやすかったので、それは非常によかったなと思っております。

「RYTHM 打! えいめい」、「デイサービスセンターえいめい」にて、インドネシアのドラを叩く参加者と山賀氏(2016年) Photo: KIGURE Shinya

「RYTHM 打! えいめい」、「デイサービスセンターえいめい」にて、インドネシアのドラを叩く参加者と山賀氏(2016年)
Photo: KIGURE Shinya

 

認知症のお年寄りがいきいきとする、対話型の鑑賞プログラム

今井:岡安さんありがとうございます。今、参加してくださったプロジェクトのメンバーから報告をいただきました。今回のシンポジウムでは、全てのセッションにおいて第三者的に少し離れた視点から今回のプロジェクトを検証していただきたいと思って、ゲストをお呼びしております。
このセッションでは「アーツアライブ」という団体で活動をされている林容子さんをお呼びしているんですけれども、最初にそれぞれの意見交換をする前に、林さんのほうから、これまでも高齢者との活動などもさまざまにされてきておりますので、これまでの活動についてご紹介いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

:ご紹介に預かりました、林容子と申します。よろしくお願いいたします。ではスライドを使って私どもの活動を少しご紹介させていただくのと、先日、こちらのアーツ前橋でもプログラムをやらせていただきましたので、そのときの話をご紹介したいと思います。

私どもは非営利法人で、主に5つの事業をやっております。一つは、アート創作ワークショップやパフォーマンス。施設にアーティストや美大生を連れてきて、絵を描いたり、彫刻をつくったり物をつくったりということを1999年からはじめています。最初は富士市という、結構遠い場所だったので滞在して2日から5日くらいそこに泊まって、朝から晩まで一緒に生活をし、制作するという活動をしておりました。食堂の壁を塗り替えるから、せっかくだから絵を描いてほしいとか、そういったご要望に答えたりもしました。

二つ目に、施設に作品を貸し出すという活動も、小規模ながらしております。

三つ目に、先日このアーツ前橋でも行いました「アートコミュニケーションプロジェクト(ACP)」という、高齢者を特に対象にした対話型の鑑賞プログラムです。それと、私自身が医療福祉におけるアートに関する研究もしております。

思い出の障子絵、特別養護老人ホーム 百恵の郷にて(1999年7月) 写真提供:一般社団法人アーツアライブ

思い出の障子絵、特別養護老人ホーム 百恵の郷にて(1999年7月)
写真提供:一般社団法人アーツアライブ

忘れもしない最初の私たちのプロジェクトは、この障子絵でした(写真右)。オープンしたばかりの施設で、ベッドのある洋室ですが、居室が全部白い障子だったのです。それが非常に殺風景で、一緒に連れていった美大生は、これが白いキャンバスに見えたのですね。白いキャンバスが延々と続いている、と。施設の方によると多くのお年寄りが、障子が全て白いため目印がなく、自分の部屋に戻れない、という問題があるとのこと。それで目印にもなるように、ここに絵を描いてもいいですかと提案したら、いいですよ、と。障子なので和紙を切って貼り絵にしよう、ということになりました。特別養護老人ホームでしたので、多くの方が1日中、部屋からほとんど出ないで過ごしています。1日を過ごす部屋に、彼らが見たくもないものを勝手につくってはいけないと思ったので、「楽しい思い出を聞かせてください」というヒアリングから始めたんです。

この写真の部屋に住んでいたのは、85歳の車いすの女性でした。お兄さんと行った村祭りが最高に楽しい思い出、ということで詳細に語ってくださいました。語るそばから私たちは和紙で提灯や子どもの形を切り取っていきました。完成すると、最後におばあさんが「今の私をここに入れてちょうだい」っていったんです。車いすに乗って赤いピアスをしている「ウメノさん」というおばあさんです。

これは私たちも全く考え付きませんでした。昔の風景を創作しようと思ったのに、ウメノさんは今の自分をここに入れよう、と。こうして非常にシュールな作品になったのです。このように、最初は彼らが参加してくれるとも思わずに、ただ目の前でやっていたら、「ここにこういうのをやってちょうだい」とか「あなたのやっているのは違う」とか彼らのほうからいろいろと注文をしてくれました。この作品は今でも施設に残っています。あれから5人目の方がこのお部屋に入っているようですが、今でも残っています。

Teppei Ikehiraの作品 写真提供:一般社団法人アーツアライブ

Teppei Ikehiraの作品
写真提供:一般社団法人アーツアライブ

私たちが遅くまでやっていたので、施設の方が非常に感激してくれて、また来てちょうだいという話になりました。こういう施設にいきなりアーティストが行くということは、施設の側からしてみれば、正直いって迷惑な話なんです。忙しいところに行って、何をしにくるんだ、余計な仕事が増えるじゃないか、ということで私たちはなるべく施設の方の要望を聞いてそれを叶えていく。このときはお庭ができたばっかりだけれども誰も関心を持ってくれない、もっとお庭に出てほしいし、関心を持ってほしいということで、庭に人工池があったんですが、そこに蝋でつくった花の形のキャンドルを浮かべるなどの活動もしました。

こちらは(写真右)高齢者施設に絵を貸し出した例です。特に昔建てられた施設は正直にいって殺風景です。何も飾りがなくて、ただずっと長い廊下が続いている。アーティストが作品を貸してくれることによって、施設のなかが本当に見違えるようになります。6カ月に1回作品を変えるのですが、職員さんたちもとても楽しみにしてくださっています。

ACPは高齢者の方に向けての鑑賞教育プログラムですが、通常は東京の国立西洋美術館などで月に1回定期開催しています。これは先日、アーツ前橋でやらせていただいた例です(写真上)。70代〜90代の方々とそのご家族を含め11名が参加されたのですが、そのうち多くの方が初めてアーツ前橋にいらしたということでした。ですが、驚くほど積極的に作品に反応してくださり、想像以上のユニークな発言がたくさん聞かれ、盛り上がりました。1階に展示されている作品を中心に鑑賞しましたが、こちらは全て現代アートと呼ばれる、おそらく一般の方はあまりなじみがないものです。

アーツ前橋で行われた「シニアツアー」の様子(2016年8月11日)。上は髙山陽介《無題(Tuesday)》(2015年)、下は武澤久《サーカス》(1980年)

アーツ前橋で行われた「シニアツアー」の様子(2016年8月11日)。上は髙山陽介《無題(Tuesday)》(2015年)、下は武澤久《サーカス》(1980年)

髙山陽介さんの作品では、作品の下方にあるおがくずに一番最初に目が行ってとても面白いなと思いました。下にあるものから目に入り、最初におがくずに触ろうとされたので私が「ちょっと待って」と手をやんわりとおさえたところから作品についての会話が始まりました。

それから次に武澤久さんの絵をしばらく見て「サーカスを描いています」と伝えると、前橋に「木下サーカス」が来たことを思い出され、皆さんものすごく詳しくサーカスの話をしてくださいました先ほど岡安さんが、音から何かを思い出す瞬間がある、とおっしゃっていましたが絵も全く同じなんですね。自身に全く関係のない絵を見ていても、個々の心のなかにあるものが呼び起こされるということがあるんです。おそらく木下サーカスのことはずっと忘れていたと思うのですが、この絵を見た瞬間に空中ブランコや火の輪をくぐるライオンの話など、ありとあらゆるサーカスの話が出て盛り上がりました。このプログラムは実は美術館だけでなく、高齢者施設でも実施していますが、元になっているプログラムはニューヨーク近代美術館が始めた認知症高齢者のためのプログラムなんです。

今回のアーツ前橋の参加者には認知症の方はいらっしゃいませんでしたが、私たちは普段、このプログラムを認知症高齢者の方とご家族、介護士さんを対象にやっています。なぜ認知症の方でもいきいきと話せるのかということですが、脳細胞は認知症になったら全てが一度に死んでしまうわけではなくて、残っている部分があり、その部分を最大限に使うプログラムだからなのです。脳細胞は新たに刺激を与えれば、死ぬまで成長するんです。肌なんかは一度ダメージを受けたら再生は難しいけれど、脳はどんどん死ぬまで発展していく。記憶力はなくなっても、逆に想像力みたいなものは豊かになっていくことがあります。そして認知症の方々でも社会的な参画を求めています。しかし障がいを持った方や高齢者、認知症の方などはどうしても社会に入っていきにくい。そういうときに、美術館といった晴れの場に行ってみんなと一緒に何かを楽しめる。まだ自分がそういうことができる、という経験が大変大きな喜びなのかな、と

こうしたプログラムをファシリテートする人材を「エデュケーター」と呼んでいますが、人材の養成もしております。アートの知識だけでなく、非常に高度なコミュニケーション力が要求されます。そもそもアートが好きな人たちが対象ではないので、面白くなければ全くそっぽを向いてしまう。高齢者は、気を使うということをしないので、つまんないものはつまんないし、見たくないものは見たくないとはっきりおっしゃいます。嫌いという反応を示すことも感情の表れですが、関心を持っていただくには、こちらも相当楽しいものにしたいと思っています。

林容子氏 Photo: KIGURE Shinya

林容子氏
Photo: KIGURE Shinya

これまでいただいた感想ですが、参加者のご家族や介護士さんの側からすれば、(参加者の)普段と違う顔が見れた、という。本人からは、生きる張り合いになる、といわれたこともありました。ただ活動を持続することはかなり大変でして、さまざまな問題もあります。例えば、一人では美術館に来られないから誰が連れて来るのか。それから施設に入所している人は施設と契約をしていますから、いくつもの許可をとらないと一歩も外に出ることができない。また介護業界は資金が潤沢ではなく、高齢者も一部を除いて経済的に非常に厳しいところにある。まして日本ではアートはまだまだ敷居が高い、なじみがないというイメージがある。こうした三重苦、四重苦、五重苦というような状況です。ですが可能性は大変あると、私はこれまでの自分の活動から実感しております。以上で私のほうは終わります。

 

不自由になっていくことは悪いことではない

今井:林先生、ありがとうございました。それではここで、今回シンポジウム全体を通して、モデレータをお願いしている石原先生をご紹介させていただきたいと思います。石原先生は群馬県太田市出身でいらっしゃいます。現在、東京大学の准教授で当事者研究をされております。今日はこのあと石原先生のご講演もあります。今回のプロジェクトや林先生の事例をご覧いただいたところで、石原先生からご意見をいただき、ディスカッションに入りたいと思います。

その前に一つ補足事項がございます。皆さまのお手元に質問票を配らせていただいております。こちらの質問票ですが、それぞれのセッションごとに皆さんのほうからご質問などがありましたら書いていただき、その質問をもとに最後の回で議論を進めたいと思います。それでは石原先生、よろしくお願いいたします。

石原:ご紹介ありがとうございます。東京大学の石原と申します。専門としては哲学ということになっていまして、最近では精神医学の哲学や、当事者研究というのをやっております。それで、アートに関しては基本的に素人です。人並みには興味はありますけれども、決して芸術的な人間ではなくて、私の小学校や中学校での美術や音楽の成績はあまり芳しいものではありませんでした。

石原孝二氏 Photo: KIGURE Shinya

石原孝二氏
Photo: KIGURE Shinya

従いまして、私のバックグラウンドとしてはほとんど素人だとお考えいただければと思います。そういう人間をモデレータにするというアーツ前橋の勇気というか、英断に敬意を表したいと思いますけれども、それはさておき、今までお話を聞いてきて、非常に面白かったです。おそらく今回のシンポジウムを通して、議論していく大きなテーマとしては二つあると思うんですけれども、一つはそもそもアートが福祉とかあるいはケアの現場で役に立つのかという、それが一つの大きなポイントだろうと思います。もう一つのポイントはもし役に立つとして、あるいは何か意味があるとして、それを継続していくために、あるいは拡大していくためにどうしたらいいのか、その課題を考えるのが二つ目のテーマだと思います。

このセッションにしても早速二つのポイントに絡む話がいろいろ出てきたと思います。まず一つ目の意義の点ですが、直感的にはすごく意義があるなという気がするんですけども、なんで意義があるのということをちょっと考えてみますと、例えばコミュニケーションと教育は全く違うものですよね。教育は、何かについてよく知っている人が、教わる人に対して教えていくものだと思うんですけれど、コミュニケーションは、教える人がいないというのが基本的な特徴で、一人では成立しないですね。コミュニケーションのパートナーがいて、そのパートナーとの間のダイナミクスと言いますか、相互作用というか、やり取りのなかで何か「新しいもの」が出てくるのがコミュニケーションだと思うんですよね(ハーレーン・アンダーソン、ハロルド・グーリシャン、野村直樹「協働するナラティヴ──グーリシャンとアンダーソンによる論文「言語システムとしてのヒューマンシステム」』〈遠見書房刊、2013年〉参照)。

本来、そういう「新しいもの」がなかなか出てきにくいのが、教育や訓練であったり。よく知っている人があまりうまくできない人を教えていくっていうのが訓練だろうと思うんですけれども、今回の亥士さんやざくろさんの映像を見ていますと、そうした教育や訓練はメインではないですよね。普段デイサービスでやっているプログラムもちょっと映っていて、体操みたいなものをやっていたんですけれど、これは教育訓練だなという感じがすごくしました。基本的に高齢者の人が、これだったらついてこられるんじゃないだろうかっていうようなことを考えて、よく考えられたと思うんですけども、実際みんな一生懸命やっていて、ついていっている感じがしますが創造性がないというか、大体予想したことが起きるという感じです。もちろん意味があることだと思うんですけれども、ちょっと言い方を変えると機械的というか、やらされている感がすごく漂っている、そういう感じがしました。

いつもそうなのかはちょっとよく分からないですが、デイサービスなどで行われているプログラムは、おそらくほとんどがそういうものだろうと思うんですね。こういうことをすれば、利用者の方はこういう反応をする、といった予想が大体あって実現されてきた。だからプログラムとして成り立っているのでしょう。でも基本的にアート、あるいはコミュニケーションは、予想しないことが起きることがすごく重要で、亥士さんが音を鳴らして、利用者の人たちがそれに食いついてくる感じがあって。さっき、盛り上がらないっておっしゃっていたのがすごく面白かったです。普段亥士さんやっているものから比べると盛り上がらないんだろうけれど、逆に普段のデイサービスのプログラムから比べると、表情が全然違うのかなという気がします。なぜかというと、やはり自分が何かをやることによって新しいものがそこでできてくる。そういう直感があるから表情が違うんじゃないか、という気がしたんです。その辺りをお伺いしたいです。

石坂:たぶん、普段接している人たちよりも反応が緩やかなところがあると思うんです。そこで勉強になったのもありますが、とにかく反応は早くないといけないという考えがあって、早く返してほしいっていうか。でも返ってくるわけないんですよ、お年寄りなんで。じわっと染みていって、そこから何かが発動するまでに時間がかかるんだというのが今回やってみて分かったりしました。ただ、僕もざくろさんもだんだん少しずつ待てるようになったと思います。初めはがさつな音を出していた人が繊細な音を出すようになったりなど、個人でいろいろと目に見えて結果が出てきて。
それはやっぱり、全く知らない者同士の距離感を縮めていくことが関係しているのかなというのはすごく感じました。僕は打楽器の演奏家なんで、デイサービスには来ない立場の人間だと思うんです。もちろん慰問をしているアーティストもいると思うんですけど、僕は行かないですよね。なので、そういう結構シビアにやっていくタイプの人間が、お年寄りと真剣に2分なり3分なりをセッションするのを繰り返していると、「もう敵わないから降参」っていうようなシーンがあって、そこからやっぱり打ち解けて、さっき林先生がおっしゃっていたみたいに、脳が学習していく的な感じで僕とかすごくクリアになって、すごいなって思うシーンがありました。

石原:亥士さんにもざくろさんにも伺いたいのですが、初めはどういう感じで始まったんですか。芸術的なものに関して新しいものができるという期待感がありましたか。

石坂:このプロジェクトですか。それは何もないです。

山賀:私もないです。

石坂:分かんなかったです。一番大事にしているのは、その場で生まれる何かというところで、僕らがいることで何かしらのエネルギーを生まれるか、というか。

山賀:楽しんでもらえればいいかなっていう感じがあります。

石原:芸術家としてプラスになりそうだという感じはありましたか。

石坂:自分たちが芸術家って意識もそんなになくて、アートだからとかそういうこともないんですけれど、その場がいかに活性化するかっていうのが、たぶん僕もざくろさんもテーマとして活動をしているんです。

山賀:それは、与えられたワークショップの1時間の内容を何かしなきゃいけないっていうことがあるので、ある意味切羽詰まったような状況ではあると思うんですよね。なんかつまんないことをしてると利用者さんは困るかなと思ったんで、ワークショップの一番最初のときは、皆さん一人一人に握手をしました。普段そんなことしないんですけどね。亥士さんは演奏して、私は何しようかなと考えて握手でもしようかなと。なんかウェルカムのような状況をつくりたいなっていうのはあって、そういうところから入ったところがあります。

石坂:僕とざくろさんはタイプが全く違うんで、僕はそのあたりはどうでもいいっていうか……。そこをざくろさんはうまくやっていました。

山賀:営業スマイルじゃないけど、ずっとニコニコしながら接していたところがあります。

石坂:でもやっぱり、アートをしようとかじゃなくて、出会った時間をいかに有意義に過ごすかっていうところだったかなと。

山賀:それもあるし、面白い人ってやっぱりいますよね。別に技術がなくても。そういうところを発見したいっていうのは普段のワークショップでもあると思うんですよ。この人にはもっと乗せてあげて、いいところを引き出して、もっと引き上げてあげてみようという、そういう欲求はすごくあります。亥士さんもあると思うんですけど。相互的なコミュニケーションが高まると、その人はさらによくなってくるとかね。

石坂:あとは枯れていくというか、体が自由に動かなくなっていくからこそできる世界っていうのがあるみたいで、不自由になっていくことは悪いことではないなって思いましたね。

山賀:小さい子どもの絵とかが面白いように、技術が伴わなかったり、自分の体が自由に動かなかったりのところにも面白さはあると思うんで、そういう発見もしつつ、やっていたところもあります。

石原:(参加者の方々の)音や動き自体がすごいなというのはありましたか。

石坂:あります。たぶん今のお年寄りだからできるんだろうなっていうのはあります。僕ら世代があの年齢になったらこういうリズムは出せないなっていうのはやっぱり感じます。今の学校教育では五線譜で音楽を教えているからです。参加者の方々は均等なリズムを絶対叩くと思っていたんですけど、そうじゃないんですよ。みんな不思議な、不規則なリズムで叩くんで、手が動かないのかなんなのかっていろいろ思ったんですけど、そういうわけではないみたいで。

石原:加齢の問題というか、世代でしょうか。

石坂:文化の違いだと思います。おそらく彼ら彼女たちの時代は村祭りで(囃子などが)うまい人たちがまだ生きていて、そういうのを無意識に聞いていたり。僕らの育った時代は、まずそういうのは聞きにくい、体験しにくい時代だと思うんです。だから今回こういい感じを共有できたような気がします。

 

「RYTHM 打! えいめい」、「デイサービスセンターえいめい」にて(2016年)

「RYTHM 打! えいめい」、「デイサービスセンターえいめい」にて(2016年)

 

 

「好きじゃなくていい」を提示していく

石原:それでもう一つのポイントの、継続拡大について話を変えてみたいのですが、この辺は林さんがご専門のところかと思います。映像に映っていたスタッフの方のインタビューでは、最初はすごくインパクトがあったけれど、利用者の方は何回かやっているうちに慣れてきて、少し飽きてしまったとおっしゃっていて。どうしても同じことをやると飽きてしまうので、何か目標があってそれに向かっていくのとはちょっと違うのかなとおっしゃっていたんですけれども。アートのよさには、今まで体験したことないことを体験することもあると思いますが、そうするとやはり1回でおしまいというか、継続するためには何か達成感みたいなものがないと継続できないんだろうなという気がするんですよね。そもそも継続しなればならないのかというのはまた議論すべき問題だと思いますが、その辺りで林さんはどのように思われますか。

:継続するというのは、ものすごく大きな変化を生み出すものだという実感があります。例えば認知症デイサービスや老人ホームでプログラムを続けていると、初めは本当に口数の少なかった方が、2年後には絵を見た途端にどんどんしゃべりだすというように変わることがあります。継続というのは、やる側からすれば金銭的なことや条件をどうクリアしていくかというロジスティックスな問題がありますが、参加者の側のモチベーションが実はとても重要なんですね。やはり予算の問題もあるので、創作プログラムを毎週というのはとても難しくて、どうしても1年に何回かという感じになってしまっています。

以前、経済産業省の補助事業で、1週間に2回ずつ、3カ月間にわたりアート創作とアートコミュニケーションのワークショップをやったことがありました。75歳以上の高齢者の方、70人を対象に行い、全部で5種類のワークショップを3回ずつ実施しましたが、必ず毎回少しずつ内容を難しくしていったのです。

最終的にはみんなで10メートルの壁画を制作したのですが、このときに一番最初にやってもらったのは、作家さんが積み木を持ってきて「積み木を重ねて家をつくりましょう」と初めて、その家を今度は絵に描きました。非常に単純な形ですから誰にでも描けます。それが3カ月の間にどんどんレベルアップしまして。鳥の絵を描くようになって、あまりに腕が上がってきたものですから、最後は直接キャンバスに絵を描いてもらう、とまでなっていったんです。

非常に興味深かったのは、最初は作家が描くものをしきりにほめていたんです。ところが3週間目ぐらいから、自分たちが描いたものをお互いにほめだした。その現象がすごく面白いな、と。私たちのアンケート調査でも分かったことですが、やはり人間というのは、新しいことを学べた、この歳でこんなことができたというのが最大の喜びの一つなので、少しずつチャレンジしていくことが継続の場合にはとても重要なんだと思いますね。
高齢者だからとか、認知症だからとか、大学生だからとか、は実は関係ないんです。大学で授業をするときも、いきなり難しいことをしたら学生たちはついて来られない。だから同じなんですよね。人が何かに体験し、少しずつチャレンジして自分でクリアできた、という達成感が喜びなのかなと思います。

石原:亥士さんのスタイルだと、そういうように段階を踏むのは難しいかなという気もしますね。

石坂:僕は高齢者向けのプログラム自体の経験があまりないので、なんともいえないところもありますが、「好きじゃない人は好きじゃなくていい」というのを提示していくのが僕たちの仕事だと思っています。だから「拒絶反応を出してください」というところです。だから「あの人は嫌だったな」とか言われたほうがいいかなという(笑)。そういう好き嫌いというか、音楽といえばピアノが好きな人は、僕みたいな演奏家はどうかと思うかもしれないですし、僕みたいな人が大好きっていう人もいると思っていて。自分の場合はそこをあまり薄めないで、明確に提示していくほうがいいかと思っています。

えいめい」の利用者の方を招いて行った、アーツ前橋でのライブ「Rhythm 打!えいめい」(2016年7月24日) Photo: KIGURE Shinya

えいめい」の利用者の方を招いて行った、アーツ前橋でのライブ「Rhythm 打!えいめい」(2016年7月24日)
Photo: KIGURE Shinya

 

高齢者と対等な関係でワークショップを進めていく

石原:実際にこの会場で楽器の音をきいて、こんなに大きい音だったのかとびっくりしました。セッション自体はすごくよかったと思うんですけれど、嫌な人もいるかもしれませんね。木村さんにも伺いたいと思います。今の問題にも関係しますが、やっぱり好きでも高齢者の方だとあまり参加する機会がなくなってしまって、ある意味押しかけていってやらざるを得ないというところもあるのかなって気がするんですけれど、そういう受け入れ側の難しさみたいなものも議論できればと。いろんな問題があるかと思うんですけれど、ちょっとびっくりしたのは名前は教えてくれないということです。利用者の人から名前を聞かないというようなことを先ほど(岡安さんが)おっしゃっていましたね。

木村:介護保険を使った施設なので、例えば本人や家族が、デイサービスに通っていることを近所の人に知られたくない方もなかにはいらっしゃるんです。それもあるので、名前を伏せているというのはあります。本当に介護保険制度のなかでの施設というのが前提ですので。

石原:本人と家族の希望で大丈夫な人もいるんでしょうか。

木村:はい、半分以上は同意を得ています。

石原:なかなか名前を名乗れないのはすごく難しい状況かという気もします。またそれは別の機会に議論できればと思うんですけれども、木村さんは先ほど「途中でイラッとしたことがあった」とおっしゃっていましたが、どういうことだったのでしょうか。

木村:それは、実は亥士さんが「自分が楽しむことが第一」みたいなことをおっしゃっていたときです。それは分かるんです。亥士さんが楽しむからこそ、他の人が楽しめるというようなことは分かるんですね。その言葉を聞いたのはワークショップの直前でした。既に回数を重ねている頃で、それまでは比較的まんべんなくいろんな人と関わって、演奏中心に参加する人は一緒に参加するような形をとっていました。ですが、たまたまその日は、比較的特定の人たちと個人的にセッションを始めた回だったんです。

輪になっている状態なので、特定の人とのセッションが長いと、他の人たちが置いてけぼりになっている雰囲気でした。それを他の人も聞いていたりするなら、参加したととらえられるかもしれないですけれど。普段は、このレクリエーションの時間は個別だったり、小グループになってやることもあるんですね。ですが亥士さんとざくろさんがせっかく来てくれるんだから、みんなで一つの輪になって参加しようという形をとっていたし、足が自由に動かない方々が多いので、いすを動かして移動することもできないんです。それで強制的にその場所にいざるを得ない状況で、個人的なセッションが多いのを見て、結局亥士さんの自己満足のためにやっているならなんなんだろうって思ったんです。

ただ、亥士さんが高齢者の人と音を通して本当にコミュニケーションをとっているんじゃないかという気もしていたんです。態度と言葉があまりにも違ったので、その話をしたんです。

石坂:演奏が一番得意なんで、会話のなかでは思っていることのちょっとだけしか言わないところがあって、その場で補足が足りなくて……。セッションとしてお互いの音の信頼感がとれてくる時間と濃度があって、ある程度濃密な時間を過ごさないとそこまでいかない。25人もいると宙ぶらりんになってしまう人ももちろん出て来るんですけど、(ざくろさんもほかのスタッフもいるし)いいかと思って、勝手にやってたんです。でも、そのときにやっぱりいいものができたと勝手に思っていて。ただ僕が舵取りをしている感じもあるので、申し訳なかったです。でもしょうがないかなっていう。

石原:本当にコミュニケーションをとろうとすると、やはり何か新しいものが出てくるところを求めてしまうのでしょうか。

石坂:そうなんです。今ここだっていうところで止めたくないんですよ。もうちょっとで変化が起きるっていうのがなんとなく経験上あって、そこまでやらないで、まんべんなくみんな楽しかったねっていうのは自分のポリシーにも反するし。そこにパッと集中して、それがやっぱり本当の、今いっているアートの力のようなものじゃないかなと思うんですけれど。

石原:すごく面白いです。林さんは何か加えられますか。

:まず、最初に出てきた好き嫌いの表現ですね。これ私もよく遭遇します。川崎市民ミュージアムでやったときに、「次にこの絵を見ましょう」といったら「こんなの見たくない」とか大きな声で言われて、どうしようって。なんで見たくないか教えてくれませんかというと「汚い」とかで、これは駄目だと思いました。しょうがないから、ギャラリーのなかの別の絵を選んでもらってやったことがあります。でも、そのことを見ていた介護士さんはものすごく喜んだんです。その方がそこまではっきり自分の感情を表に出したということがすごく新鮮で、すごいよかった、素晴らしかった、と。だからそんなものなのかなという感じはあります。

それからアーティストが楽しむ、自分が楽しければいい、というのは私自身も実はやっていてとても楽しくて、教えているエデュケーターの人たちにも自分が楽しまなきゃ駄目だといっています。自分が緊張していて、この人楽しんでいるのかな、とおどおどしていたらそれはすぐ伝わってしまう。少なくとも自分が楽しければ、楽しさの伝播というか、それは少しあるんじゃないかなと思うんですね。ただ全く置き去りでは困って、やっぱり高齢者施設ってみんな一緒に認知症の人も認知症じゃない人もいろんなバックグラウンドの人が一緒にいるので、非常にやりにくいところではありますよね。でも、継続していけばどの方にもブレイクスルーのときがあるんですよね。最初は不機嫌そうで途中で中座しちゃうような人も、継続していくと、必ずいつか、なんらかの作品に対峙したときに、ブレイクスルーするときがあるんだなと感じます。そのときを待つのが重要かなという感じがします。だからそういうことを亥士さんはおっしゃっているのかな、と。

必ずしも期間中に全ての方がブレイクスルーしたわけじゃないけど、その方にとってはそれがもしかしたら楽器じゃないかもしれないし、絵とか香りかもしれないし、全く別物かもしれません。

石坂:あとは、今回は特に展示に反映する、ということもあったんで、多少自分のなかでこういう絵を、岡安さんがいい感じに撮ってくれたのでその辺の信頼感と、チーム感っていうのも6人いるので、チームの信頼で持っていたところもあると思いますね、一番大事なのはおそらく高齢者の方と自分が対等ということで付き合いをしないと、やっぱりおかしなことになると思いました。

:先ほど石原先生が教育というのはコミュニケーションとは全く違うというお話がありましたけども、それは本当に同感です。やっぱり私たちのほうが、少しでも参加者の高齢者よりも上だとか、アートにしても知識を持っているんだといったことになると、やはり認知症の方でも、変なこといっちゃいけないとか、間違えたくないという見栄もあります。そこで硬直しちゃうとおっしゃる方もいました。だから、いかにリラックスしてもらうかが鍵だと最近は思っています。それもプログラムを始める前の雰囲気からもうリラックスして安心できる感じをどうやってつくり出すか。それさえつくり出せればどんなプログラムも成功できると感じています。

石原:岡安さんに映像の件も触れたかったのですが、そろそろ時間になってしまいましたので最後のパネルディスカッションでまたぜひ映像についても議論できればと思います。どうもありがとうございました。

 

参考動画

アーツ前橋「表現の森 協働としてのアート」展(2016/7/22-9/25)で展示した「RYTHM 打! えいめい」の様子や、施設関係者へのインタビューを以下の動画にてご覧いただけます。

「RYTHM 打! えいめい」
https://www.youtube.com/watch?v=89fdzuH8ziU
▶ワークショップの様子のダイジェスト映像。その日、その時間だけのリズムが生まれました。*後半10分は休憩映像です

「演奏者たち」
https://www.youtube.com/watch?v=pUxAM3onbJc
▶ワークショップに参加するデイ利用者の様子とインタビュー映像。リズムを通して生まれた変化や思い出された記憶はどのようなものでしょうか。

「ケアの現場から」
https://www.youtube.com/watch?v=yK3tIB5btT0
▶デイサービスのスタッフを対象にしたインタビュー映像。普段行っているレクリエーションとの違いや、利用者の方の様子についてお話ししています。

「RYTHM 打! えいめいライブ」
https://www.youtube.com/watch?v=dEClFni0rCA
▶「表現の森 協働としてのアート」展(2016/7/22-9/25)の会期中に、関連イベントとしてアーツ前橋ギャラリーにて実施したライブの映像です。

(構成・投稿=佐藤恵美)

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